「副業解禁」を一括りに論じてはいけない理由生活補助と小遣い稼ぎでは意味が全然違う|マネブ

マネブNEWS:〔2017.12.14〕日テレ「先僕」が描く、学校のリアルな課題「HER 現在の記事数:252855件

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「副業解禁」を一括りに論じてはいけない理由生活補助と小遣い稼ぎでは意味が全然違う


副業にもさまざまな働き方やスタンスがあります(Graphs / PIXTA)

副業解禁――。

厚生労働省は11月20日、企業が就業規則を制定する際の公的なひな型として影響力を持つ「モデル就業規則」について、副業を認める内容に改正する案を有識者検討会に提示した。今年度内にも副業・兼業が公的に事実上、解禁される見通しになってきた。

これに対して、世論は、「多様な働き方を促しすばらしい」という声や、「副業が長時間労働の温床となり過労死促進につながる」といった意見もあり、賛否両論だ。

副業には5つのタイプがある

私は、社会保険労務士としてこれまでも副業に関してもさまざまな相談を受けてきたが、副業を行う理由は人それぞれであるのに、肯定するにせよ否定するにせよ、「副業解禁」と一言で括ってしまうから、問題の本質が見えなくなってしまっている面もあると感じている。

私なりの分類であるが、副業には5つのタイプがある。「生活苦型」「小遣い稼ぎ型」「やりたいこと型」「本業スキルアップ型」「起業・転職準備型」である。1つの副業が複数のタイプに重なることもあるが、それぞれのタイプによって労働者のスタンスや企業側の対応、注意点、法的な支援などは変わってくる。

(1)生活苦型副業

「生活苦型副業」は、本業の賃金が少なすぎて生活に必要な収入が得られず、やむをえず副業を行っているというタイプの副業である。本業の仕事を持ちつつ、早朝や深夜にコンビニや飲食店で勤務をするというようなイメージだ。

ただ、本業でフルタイム勤務しているにもかかわらず生活が苦しいという職場は違法状態になっているケースも考えられる。

「罰金制度のために手取りが極端に少なくなってしまう」「フルコミッション制で保障給がない」「基本給が低いうえに残業代も支払われない(サービス残業が横行している)」などはすべて違法である。

上記のような場合は、労働基準監督署への通報とそれに基づく指導によって改善される可能性はある。本来受け取れるべき賃金が正しく支払われるようになれば、望まない副業をやめて心身を休めたり、家族との時間を過ごすことができるようになったりするかもしれない。

ただ、合法的に賃金が支払われても、地方ではまだまだ最低賃金が低く、法律どおり賃金が支払われても生活が苦しいという現状がある。

たとえば沖縄県の場合、最低賃金は737円である。1日8時間、月20日働いても総支給額で11万7920円にしかならない。ここから社会保険料や税金を天引きしたら、手取りは10万円程度である。

1人暮らしなら辛うじて何とかなるかもしれないが、家族を扶養している場合はダブルワークをしなければ厳しいと言わざるをえない。

では法改正をして最低賃金を一気に引き上げれば良いのかというと、事業主側の経営体力の問題もあるので、そう簡単にはいかないだろう。

その他にも、「会社の業績不振で大幅に収入が下がったので、住宅ローンや子の学費のために副業をしている」とか、「フリーターをしているが、まとまったシフトに入れないので、複数のバイト先を掛け持ちしなければならず、副業というよりもどこが本業か分からない」など、私が見聞きした限りでも、さまざまな背景による生活苦型副業があるようだ。

社員が違法な副業を行っていないか

(2)小遣い稼ぎ型副業

「小遣い稼ぎ型副業」は、本業で生活に必要な収入は得られているが、余暇や趣味に使うプラスアルファのおカネ、あるいは資産形成などを目指して、自分のペースで行う副業である。具体的には、アフィリエイト、本の「せどり」、ネットワークビジネスなどが代表例である。

基本的に本人が好きでやっていることなので、本人自身が苦になることはないだろうが、企業側には注意点がある。それは、就業規則の整備だ。

社員が業務時間外に何をやっても原則自由だが、インターネット上には怪しげなビジネスも少なくない。社員が法に触れるような副業に手を出したり、法に触れるとまでは言わずとも、同僚に対してネットワークビジネスの勧誘を行ったりして社内秩序を乱すというトラブルもしばしば発生している。

また、2012年には京都府警の警部補がインターネット上でアダルトサイトを運営していたことが発覚し、減給処分を受けたが、本人の依願退職で幕引きとなったという事件も発生している。本人はこのサイトから約750万円の副収入を得ていたということだ。公務員は副業が禁止されているので妥当な処分だが、民間企業であっても、このようなケースは会社の信用や品位に傷を付けかねず、発覚した場合は懲戒の対象となりうる。

企業側としては、就業規則で違法な副業や会社の信頼を失墜させる副業を行うことの禁止を明示して注意喚起するとともに、社内でネットワークビジネスの勧誘等も禁止しておく必要があるかもしれない。

もちろん就業規則に書くだけでは周知徹底されないし、知らず知らずのうちに違法な副業に手を出してしまうこともありうる。社員研修を行ってマルチなど違法な副業の例を具体的に説明するとか、社員が行っている副業の内容を会社に報告させたりすることは会社の人事権の範囲だ。「小遣い稼ぎ型副業」に限ったことではないが、副業を就業規則で届出制にして、社員が違法な副業を行っていないか常時チェックをしていくことも必要であろう。

(3)やりたいこと型副業

「やりたいこと型副業」は、「生きがい」「やりがい」といった、社会貢献や自己実現に重きを置くタイプの副業である。話すことが好きなのでセミナー講師をするとか、英語が得意なのでクラウドソーシングで翻訳の仕事を引き受けるといったような形の副業が挙げられる。また、町内会の祭りの事務局をすることや、地域の子供たちのスポーツチームの監督を引き受けることなども、無償であったとしても、一種の副業としてここに含まれるであろう。

これも本人はやりたくてやっているものの、企業側には留意点がある。休日出勤や残業などの強要だ。

本業をないがしろにして副業にのめり込んでいる場合は別だが、本業と副業を一生懸命両立させようとしている社員の腰を折ると、大幅にモチベーションが下がったり、場合によっては会社に恨みを持ったりする。

逆に、社員が安心して好きな副業に取り組める会社のほうが、本業のほうでも社員はモチベーションや責任感が高まるようである。

現に私の知人が経営する会社でも副業をしている社員がいるが、本人は「明日は(副業があって)残業できないので、前倒して、必ず今日の定時までにこの仕事は完成させます」など、計画的に主体性を持って仕事を進めてくれている。これまで副業が原因で本業に問題が発生したことは無いと聞いている。

一昔前なら「仕事が優先だろ!」の一言で片付いたのかもしれないが、今のご時世、休日出勤や残業をしない社員を無責任だという前に、突発的に休日出勤命令や残業命令を出すような会社のマネジメントにこそ問題があるケースもある。

(4)本業スキルアップ型副業

「本業スキルアップ型副業」は、本業のスキルアップを目指して行う副業である。たとえば、法務部の社員が友人の開設した弁護士事務所で法律事務を手伝うとか、IT系の仕事をしている社員が他社での仕事を通じてプログラミングスキルの幅を広げるとか、副業で頑張ったことが本業に生かされる。

具体的な実例で言えば、副業をいちはやく解禁したことで有名になったロート製薬では、エンドユーザーの声を聞いて本業のヒントにつなげたいと、ドラックストアでの副業希望者が多かったということだ。

副業先の希望で最も多いのはドラッグストアだった。研究開発やマーケティングの部門に所属し、薬剤師の資格を持つ社員が「お客さんの生の声を聞きたい」と希望しているという(2016/6/14 日本経済新聞)。

このように、企業側と労働者側の利害関係が一致しているので、副業の中ではトラブルが発生することは少ない。一方で、企業側としては就業規則等で最低限のルールやガイドラインを明確化しておくことが必要になるだろう。

たとえば、ロート製薬では、「希望する副業内容を上司を通さずに直接人事部に申告し、人事部の面談を経て認められれば始められる。競合企業を利するような仕事でない限りは、厳密な審査はしない(2016/6/14 日本経済新聞)」という基準を設けているということだ。

いくら本業のスキルアップにつながるとはいえ、副業先の会社や自己が営む副業ビジネスが本業と競合になるようなことがあってはならないし、本業の守秘義務は守らなければならない。

「どっち付かず」で中途半端

(5)起業・転職準備型副業

「起業・転職準備型副業」は、将来は起業や転職を目指しているが、その準備段階としての副業である。ネットショップを開設して、ある程度の規模に成長したら会社を退職するとか、終業後や週末だけベンチャー企業の仕事を手伝って、納得がいけばそのベンチャーに飛び込む、といったような事例が挙げられる。

会社にとっても本人にとっても、ダラダラとこの状態が長く続くのは望ましくない。

確かに、独立するにしても一定の準備期間は必要である。しかし、会社としては、目の前の仕事をきちんとこなしてくれれば問題はないにしても、いつ独立するかわからない社員に対しては、要職を任せたり、コストをかけて教育研修を行ったりすることなどにも二の足を踏んでしまう。本人にとっても「どっち付かず」で中途半端になってしまう可能性がある。

長くても1~2年で結論を出すのが会社にとっても本人にとっても良いことなのではないだろうか。

5つのタイプそれぞれに事情は違う。企業側としては自社の社員がどのような目的で副業を行っている、あるいは行おうとしているのかを把握し、社風にあった副業支援制度の導入や労務管理を行う必要があるだろう。政府にも実態に即した法制度の整備を求めたい。

マネマガ
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引用元:東洋経済オンライン

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