「レンタル移籍」は雇用流動化の有効ツールだ会社を「越境」した社員は何を得たのか|マネブ

マネブNEWS:〔2017.09.22〕「相談役」「顧問」の居座りは社員全員の迷惑だこん 現在の記事数:248022件

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「レンタル移籍」は雇用流動化の有効ツールだ会社を「越境」した社員は何を得たのか


レンタル移籍直後のランドスキップ下村社長とNTT西日本の佐伯氏。2人の後ろにある「風景」が商品だ(写真:原田未来)

新卒入社した会社を勤め上げるという人は減り、昨今の人手不足もあって人材の流動化は進みつつある。しかし、安定した大企業に入った人が今までのキャリアをリセットして転職することには、まだ勇気がいる。転職して外の世界を見ることができないため、不本意ながら所属する会社のことしか知らないという人も少なくないことが現実だろう。

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また、「オープンイノベーション」という言葉も一般的になり、外部の新鮮な知恵やノウハウの吸収を必要としている企業は増えている。しかし、組織化、分業化が進む大企業では、失敗を恐れずに経営者視点を持ってビジネスを進めていくことができる人材が育つ土壌に乏しい。社内研修を抜本的に変革していくことも、一筋縄ではいかない。

サッカーチームのように社員を「レンタル」する

しかし、社員が外の世界を見ることを可能にし、会社は効率的に社外のノウハウを吸収できるようにするのが、ローンディールが2015年9月に開始した「レンタル移籍」サービスだ。このサービスは、人材が元の企業に在籍したまま一定の期間を定めて他社で働く仕組み。サッカーの世界で、出場機会が得にくいビッグクラブの若手が他のチームに期間を定めて移籍することがよく行われているが、このイメージに近い。直接の資本関係すらないベンチャー企業に社員を送り込み、事業創造に深くコミットさせる機会をつくることができる。

人材を貸し出す企業側に、まず対象となる人物を社内公募で選んでもらい、ローンディールとの面談などを経たうえで、130社を超える登録ベンチャー企業から受け入れ先を紹介する。人材の適性やスキルに応じた業務、プロジェクトを設計しコーディネートするが、それにとどまらずレンタル移籍中の人材と毎月面談することでフォローを継続し、人材育成を支援する。現在は、主に大企業からベンチャー企業へのレンタル移籍が中心となっていて、移籍した従業員の給与や賞与、社会保険は、移籍させる側の負担になる。

このレンタル移籍を活用しているのが、NTT西日本だ。同社は、外部とのアライアンスを通じた事業創造を推進していて、事業創造を担える人材の育成を必要としていた。一方、受け入れる側は「風景の流通」という新しいテーマに取り組むスタートアップ企業であるランドスキップ。旧国営企業からベンチャーへの「レンタル移籍」は、うまくかみ合うのか。

ランドスキップは、デジタルサイネージやVR空間を通じて、森、川、海などの自然の美しさを、ありのままに360度4K映像で切り取って配信するサービスを提供している。オフィスや家庭だけでなく病院や公共施設などもターゲットだ。「研修」という形で2017年4月から1年間レンタル移籍したのは、2009年にNTT西日本に入社した佐伯穂高氏。ビジネスデザイン部で開発戦略の策定や業績管理に携わっていた。

NTT西日本は「大企業では得にくい、アイデア創出からビジネス拡大に至るまでを通じた経験を実践し、べンチャー企業ならではの価値観、働き方、経営全般を見渡す感覚を養い、組織に還元することを目的に今回派遣することとした」と今回の移籍の意義を説明する。生活基盤の周りでIoTを取り入れるビジネスの展開を考える思惑もあり、ランドスキップへの移籍が実現した。佐伯氏も「VRやAR(拡張現実)といった最新テクノロジーはもちろん、映像を撮る技術なども、NTT西日本で経験することは難しい」と話す。

「個人商店」からの脱却が課題だった

ランドスキップは、正社員は4人。フルタイムでコミットしない人を含めても10人弱という小規模組織だ。社長の下村一樹氏は、これまでアップルコンピュータやコンサルティング会社などでキャリアを積んだ後、同社を起業した。会社は順調に成長しているが、「個人商店」というスケールにとどまっていることに危機感を覚えていたという。

「経営やビジネス開発をするのは自分しかおらず、そのほかの正社員はエンジニアや、カメラマンのみ。このままだと事業としての広がりはない。スタートアップは新しいことをやって勝ち進めるという、いい意味での爆発力はあるが、それだけだと成長への課題を見落としてしまう」(下村氏)

一方、大企業では文化的に減点主義で考える癖が抜けないことも多い。新規事業をやることになっても、建て付けだけ作って誰も推進せずビジネスも大きくならないといったことがよくある。しかし、ベンチャーでは発想して行動し、最後までやりきる力がないと、生き残ることはできない。佐伯氏は「下村さんがビジネスパーソンとしてすばらしいのは、やると決めたことに対しての突破力」だと話す。

「市場の生の声を聞きに行くことは最初はつらいが、まったく厭(いと)わない。人を引き付けながら、ビジネスを作り上げていくとはこういうことかと。ビジネスを作り上げていくということは、おカネで解決できるものでもなく、体も頭も汗をかかないと無理だということを実感した。また、経営者としてすごいのは、今の事業がうまくいきつつ、次どこで食べていくかをつねに考えているところ。3年後に流れが来たとしても、急にそのビジネスをやろうとしても遅いが、大企業ではありがち」(同)

下村氏が組織の経験がある佐伯氏から学んだことは何だったのか。それは、ビジネスを「事業」に進化させることだったという。

「これまでは企画書も完全オーダーメードで一つひとつ作っていたし、受注や納品についてマニュアルもなく、あらゆることが属人的だった。焦点的に攻めて落として、では限界がある。個人なら1日3個しかできなかったことが、どうやったら1000個できるようになるか。佐伯さんは、最初に空けた穴を次にどう通すかを明確にしてくれた」(下村氏)

大企業からベンチャーへ転職する人も増えており、「大企業経験者を採用すること自体に困るケースは減っている」(同)という。しかし、大企業を辞めて採用されたいと考える人と、大企業の組織につながりを持ちながら、自社で事業をゼロから一緒に加速させるつもりでいる人はまったく違う。レンタル移籍で入社した人材は「部下やチームメンバーを採用したという感覚ではなく、パートナーという意識」(同)なのだ。

大企業とのアライアンスを的確に

特に大きな期待があったのは、アライアンスをスムーズに進めるノウハウ。ベンチャーは生き残るためにも意思決定のスピードを最重要視するが、逆に拙速になるというデメリットもある。下村氏からすると、これまでは即決できない相手方にはいらだちを感じてしまっていたようだ。

「これまでも、大企業とアライアンスを組んでここまで大きくなってきた。しかし、相手の意思決定があいまいだと、僕からすると歯切れが悪く感じてしまって、『どうして今決められないんですか?』と無理に押してしまうことも少なくなかった。結果として引かれてしまい、話がなくなるということも……。佐伯さんなら、リレーションを保ちつつもしかるべきタイミングでズバッと進めることができる」(下村氏)

ベンチャーの側から大企業に話を通すためには、誰に話を当てるのか、どのような材料を用意すれば目の前の担当者が上に伝えやすいのかという情報は不可欠だ。そのプロセス形成、意思決定のタイミングについては、大きな組織に身を置かないと勘所がわからない。佐伯氏が断然得意とする領域だ。

「大企業は調整をしないと物事は進まない。基本的に組織構造はピラミッドで話を上に上にと通していかないといけないし、縦割りで壁があるから二重に苦しい。そうした場を経験しているからこそ、大企業の担当者と話をしていても、相手の気持ちがよくわかる」(佐伯氏)

移籍当初はスピード感や業務の多様性に慣れず、調整が必要だったというが、今では2人は強固な信頼関係が築けた状態だ。しかし、移籍の期限は2018年3月に迫っている。下村氏は「終わったときのことは、考えないようにしている」と笑う。

1年間という期間は短いようにも感じられるが、ローンディールの原田未来代表取締役は「期限が切られているからこそ終わりが見え、そこに向かって真剣に頑張ることができる」とむしろ意義があることを強調する。佐伯氏は、NTT西日本に戻った後は、新規事業を担当し、ランドスキップで得たベンチャーと協力する知見を、ほかのケースにも横展開していくことが期待されている。

ただの「職業体験」の枠にはとどまらない佐伯氏(右)と下村氏(左)。半年で強固な信頼関係が築けた(筆者撮影)

「レンタル移籍」は、単なるインプットとしての職業経験、つまり「インターン」のようなものではないし、アウトプット目的で一時的にスポットコンサルをする人材マッチングサービスなどとも異なる。短期間ではあるが、完全に相手の組織内に入ったうえで、「雇われる」立場以上のものが求められ、それに応えることができる。所属する会社から完全に離れて、事業創造を専念することは、移籍する社員にとって代えがたい経験になる。

今は大企業からベンチャー企業への移籍がニーズの中心ではあるが、「業界を変えて大企業から大企業へ移籍するケースや、ある程度の規模になったベンチャー企業から大企業への移籍に興味があるという話なども出てきている。いずれも導入に向けた課題は多いので、一足飛びにはいかないが、事例を蓄積しながら広めていきたい」(原田氏)という。地方自治体の中でも先進的な考えを持つところは、自主的に職員をベンチャー企業に出向させる取り組みを始めているようだ。

これからは「個人の時代」ということで、大企業に就職することはもはや時代遅れだという考え方も喧伝されるが、こうした柔軟なキャリア形成の機会が一般的なものになれば、流れも変わるかもしれない。大企業に入ると組織の硬直性に縛られて好きなことができない、という状況が解消されていくことが期待される。

マッチングやメンタリングを通じた育成支援のノウハウが蓄積され、適切なコーディネートができれば、「レンタル移籍」は組織、個人、そして仕事の見過ごされていた価値が、発掘される可能性を秘めているといえるだろう。

マネマガ
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引用元:東洋経済オンライン

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