トヨタ「時間に縛られない」新勤務形態の狙い裁量労働に近いがちょっと違う絶妙な仕組み|マネブ

マネブNEWS:〔2017.08.23〕日本人女性に足りないのは「自己肯定感」だなぜ女性 現在の記事数:246213件

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トヨタ「時間に縛られない」新勤務形態の狙い裁量労働に近いがちょっと違う絶妙な仕組み


日本を代表する企業が独自の「働き方改革」を進めようとしている(撮影:尾形 文繁)

トヨタ自動車が事務職や技術職の係長クラス以上を対象に、始業・就業時間を社員個人の判断で柔軟に決めて働ける新しい勤務形態の導入を検討していることを、今月はじめに複数のメディアが報じた。

「働き方改革」の決め手がなかなか見いだせていない中、独自の仕組みによって先陣を切ろうとするトヨタの動きは、厳しい国際競争の最前線にいるグローバル企業として、当然の動きなのかもしれない。

もともとトヨタは裁量労働制を導入している。一般的に裁量労働制とは、日々の実労働時間が何時間であったかにかかわらず、あらかじめ労使で合意された時間を働いたものと「見なす」という仕組みである。給料は残業代を含めて一定であったり、時間管理をしなかったりするケースも少なくない。

今回、トヨタが導入を検討している新制度は裁量労働制にかなり近いが、ちょっと違う。現状のフレックスタイム制をベースに組み立てる制度で、今年12月以降の導入を目指し、労働組合と協議を進めている。

一定以上の能力や希望などの承認が必要

時間管理を明確にし、あらかじめ決められた上限時間を超えた分については、超過勤務手当を支払う。係長職以上の全員へ一斉に導入とはならず、一定以上の自己管理・業務遂行能力を持つ本人の希望とともに、所属長、人事部門の承認があってはじめて対象となる。

トヨタが検討している新しい勤務形態には4つのポイントがある。まず時間に縛られない働き方を認めつつも、残業代の払い漏れが起きないような仕組みになっているということだ。

トヨタは現在、月の残業時間の上限を45時間とする36協定を労使で結んでいる。この前提条件において、会社は、新制度の対象となる社員に対して、45時間分の「みなし残業代」を支払うということである。「36協定の上限=みなし残業代」という等式が成り立つ。

また、45時間というのは、これを超える残業が続くと過労死リスクが高まるという、いわゆる「過労死ライン」の入口に当たる。つまり、残業可能な上限である月45時間までをカバーする「みなし残業代」が固定的に支払われるので、社員が自由裁量で働いても、イレギュラーな長時間労働が発生しない限り、残業代の払い漏れは生じない仕組みになっている。

第2のポイントは、万が一「イレギュラー」な長時間労働が発生した場合にも、不足分の残業代をきちんと精算する制度になっているということである。

写真はトヨタのロゴ、2016年9月パリで撮影(写真:ロイター/Benoit Tessier)

この点、自社流の裁量労働制を導入している会社でしばしば問題になるのは、たとえば、「当社では、営業職の社員には営業手当を一律10万円支払っている。何時間残業しても、これがみなし残業代である」というように、みなし残業代で担保されている残業時間数を超えても、超過分を精算しないというパターンである。

実労働時間数が仮に長時間になったとしても差額精算をしなくても良いのは、高度専門職を対象として国が認めた本来型の裁量労働制の場合のみであり、自社流の裁量労働制の場合は、超過分の精算をしないということは許されない。

トヨタの新制度は「裁量労働制だからいくら残業をしても残業代を支払わない」という違法な考え方とは一線を画している。

労働時間管理をきっちりと行う

第3のポイントは、通常の社員と同様、労働時間管理をきっちり行う予定だということだ。

労働時間の管理を行うからこそ、月の残業時間数が45時間以内におさまっているかということや、万一45時間を超えた場合に、いくら追加残業代を支払えば良いのかも計算できるということは言うまでもない。

そして、これは本来型の裁量労働制でも同じなのだが、午後10時から午前5時までの間に深夜労働を行った場合は、「深夜割増手当」が別途追加支給されなければならない。深夜割増手当の払い漏れを起こさないためにも、労働時間の管理は必要なのである。

少しそれてしまうが、労働時間管理は、給与計算のためだけに行うのではないということである。社員の労働時間を把握することで、働き過ぎで過労のリスクがある社員がいないかという健康管理ができる。一部の社員に負荷が偏っていないかとか、特定の部署だけ極端に残業が多くないかを見極める業務効率の向上にもつながる。

とくに健康管理という意味では、一般社員であろうが、裁量労働で働く社員であろうが、管理監督者であろうが、働き過ぎによる過労を防がなければならないというのは同じである。現実に、残業代には関係ないからということだけで、管理監督者や裁量労働制で働く社員の労働時間管理を行っていない会社は少なくない。

最後のポイントは、新制度の導入は労働組合の同意が得られることを前提条件としているということである。

報道されているところによると、45時間分の「みなし残業代」は、新たに追加支給をするということではなく、調整給など既存で支払われている手当が、支給名目を変えて「みなし残業代」に充当されるようである。

新制度では残業時間に関係なく月17万円(45時間分の残業代に相当)を支給する。月17万円の支給額は一般的な主任職の裁量労働手当の約1.5倍。過去の人事・給与体系の移行措置で残った調整給などを原資に充てるもようだが、対象者が想定を上回ると人件費が増える可能性もある。(日本経済新聞 2017年8月2日付)

この点、既に固定給の一部として支払われている基準内賃金の手当を、今後も固定的に支払うとはいえ、残業代に回すことは、労働条件の不利益変更に該当する。

労働条件の不利益変更を行うには、対象となる社員1人1人と個別合意することが労働契約法の大原則である。しかしながら、トヨタ自動車のような巨大企業で、対象となる全社員と個別合意を集めることは現実的ではない。

トヨタの場合、大半の社員が加入している労働組合(トヨタ自動車労働組合)が存在するため、労働組合と労働協約を締結するという形で導入合意が得られれば、それが対象者全員と個別合意したのと同じ法的効果を持つことができる。したがって、労働組合との合意をきちんと行った上で制度導入をするという手続面においても、不備がない。

働き方も「カイゼン」

トヨタは「カイゼン」のDNAを持った会社であるが、いよいよ働き方の「カイゼン」にも余念がない。

トヨタにおける「カイゼン」とは、経営陣から指示されるのではなく、製造現場の作業者が中心となって知恵を出し合い、ボトムアップで問題解決をはかっていく取り組みという意味で使われている。今回は、「経営陣」を「国」に「製造現場」を「トヨタ自動車という会社そのもの」に置き換えられる。

すなわち、国が法改正を行うのを受動的に待つのではなく、現行の法制度の枠組みの中でできることを見つけ出して「カイゼン」を行い、自分たちが働きやすい働き方の制度を作り出していくという姿に、トヨタらしさを私は感じた。

マネマガ
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引用元:東洋経済オンライン

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