「喜劇の時代」を生きるための哲学と民主主義今、世界で最も注目される天才哲学者が語る|マネブ

マネブNEWS:〔2018.08.22〕「おもてなし」は自己満足? 売り上げにつながらな 現在の記事数:285309件

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「喜劇の時代」を生きるための哲学と民主主義今、世界で最も注目される天才哲学者が語る


民主主義の衰退を許せばあっという間に崩壊するでしょう(写真:istocksdaily/iStock)世界中で民主主義が劣化している。アメリカのトランプ現象、イギリスのEU離脱、フランスの極右政党台頭など、多数の民意を反映した選択は、目先の利益のみを優先し、自国の生き残りをかけたものばかりだ。今、注目の若き哲学者が『欲望の民主主義』で語った、現代の民主主義、ヨーロッパ思想の原点の危機。新世代の知性は、いかに民主主義の定義を更新するか。私たちは「喜劇の時代」を生きている

1989年にアメリカの政治学者フランシス・フクヤマによる有名な「歴史の終わり」という宣言がありました。フクヤマが言わんとしたのは、これから先、永遠にアメリカ的な自由主義の民主主義が唯一の選択肢になる、ということでした。ですが、それは間違っていました。「歴史の終わり」は、まだ来ていないのです。私たちが生きているのは、「歴史の終わり」の終わりの時代でしょう。つまり私たちは歴史の始まりの時代に生きているのです。

人々の欲望の噴出は、むしろ<近代>以前のような様相を呈しています。現在の状況はとても原始的で、古人類学的とも言える反応を多くの場面で目にします。人々は、より原始的になったのです。今起きていることのうち多くのことが、まるで中世の出来事のようです。歴史の教科書に載っているようなことばかりなのです。マルクスが言ったように、まさに「歴史は繰り返す。最初は悲劇として、2度目は喜劇として」ですね。今、私たちは「喜劇の時代」に生きているのかもしれません。

では、こんな時代をどうすれば乗り越えられるのでしょう? 歴史の概念について、再び振り返り、熟考すればいいのです。実際、私たちには、今こそ、新しい歴史の哲学が必要なのです。今いかに哲学が軽んじられているか、具体的に申しあげましょう。たとえば、ドイツのアカデミズム世界で、哲学が学ばれていたとしても、歴史哲学の教授の職は1つもありません。ドイツでは、誰一人として歴史の哲学を研究してはいないというわけです。最悪です。

アメリカのシステムでも同じです。歴史の哲学の研究者は2、3人はいるかもしれませんが、それは歴史が終わる可能性もあるという幻想の結果で、ほとんど研究者はいません。歴史が終わることはありません。今は妙な形で……、漫画かおかしな空想物語のような形で歴史が再現されています。たとえばトランスヒューマニズム、すなわち、科学技術の力によって人間の精神的、肉体的能力を増強し、ケガ、病気、老化なども克服しようとするものや、あらゆる問題をロボットで解決しようというもの。人工知能やロボットの論文は実は、再び歴史を終わらせようとする試みです。新たな神学です。

ですからおそらく本当の歴史は、始まりも終わりもない歴史、人類の無限の歴史は、私たちが神は本当に死んだと思ったときにしか、真の意味では達成できないのでしょう。

それにしても、どうしてこのような「悲喜劇」が続くのでしょう?

ドイツでもフランスでも、一般的に西欧の哲学が無力と思われるようになってしまった原因、その1つは、明らかに20世紀の2つの《力》、すなわち欧米的な資本主義と民主主義で最適化されているという考え方でした。このことにより人々は歴史の概念を信じることをやめてしまったのです。ですから、歴史について話せば、その人は直接あるいは間接的にヨーロッパの植民地支配の歴史に向き合うことになると、多くの人が思い込んでいます。

それはもちろん大きな間違いです。西欧の歴史の概念にまつわるあらゆる間違った推論の最もいい解説は、たとえば、マーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙-サイレンス-』に見ることができます。そこでは、ポルトガルの神父が話すキリスト教徒が考える終末論と、日本人の考えるまた違った自然との関係の形との間で、対立が見られるのです。

自然や神との関係は、今、私たちが再考しているもう1つの事柄です。誰もが信心深い時代に私たちは生きています。宗教は終わると思っていましたが、こんなに人々が信心深い時代は、これまでにありません。

この世に幼稚な国家も大人の国家もない

歴史という概念の危機に対して哲学者は、それを規範性の概念に置き換えたのです。ヘーゲルが歴史哲学に関して啓発した人物として有名だと思われているかもしれませんね。コンドルセやルソーやヘーゲルが。これは、歴史は巨大な自動装置であるという考え方を擁護しているようなものなのです。それが「幼稚な」国家や大人の国家等に関する啓蒙でありファンタジーとなっているのです。この世に「幼稚な」国家も大人の国家もありません。なぜなら国家は動物でも人でもないからです。

これは単なる見当違いのメタファーだと言うべきです。歴史が自動的に展開するものであるということを信じなければ、歴史は……、きちんとヘーゲルの本を読めばこの点で彼が言ったことはまったくそのとおりだったと思うのですが……、彼はしばしば自分を表す際に言及されるようなデタラメな発言はしていなかったはずでした。ヘーゲルが確信していたのは、歴史がつくられるのは、彼が言うところの「自由の意識における進歩」があったときだけだということです。

では、自由とは何でしょう? 「自由」とは規則で律された行動で、受け入れる規則を認識していて、どうにもならないときは手放せるものです。たとえば、人々が奴隷制や帝国主義の継続をあきらめ始めたとき、その人々は自らの行動を、植民地における行動を決めていた規範が見当違いだったと理解したのです。それが歴史的瞬間で、自由の意識における進歩があった瞬間です。

歴史が私たちの選択と関係なく起きることはありません。「自由の意識における進歩」である歴史は、私たちが自由の意識がどちらへ向かうべきか、わかったときのみにつくられるのです。私たちが今行わなければならないのは、トランスヒューマニズムと戦うこと、自分たちが自由ではないという概念と戦うことです。私たちの知らないところで誰かが私たちの行動を決めているという概念と戦うことです。

それから、どこに実際の問題があるのかを再考するために戦うのです。考えてみてください。地球には何百万人もの難民がいるのです。ヨーロッパで難民危機が起きているだけではありません。難民危機は南米など、世界中で起きているのです。アジアやオーストラリアでも難民危機が起きています。1つの危機ではありません。難民は大勢いるのです。

大勢のこの難民が政治的な勢力争いの道具として利用されています。これは奴隷制ぐらい悪いことです。奴隷制は最悪です。ですが今日、私たちが目にしている難民危機も奴隷制ぐらい最悪です。この問題に正しく対処しなければ、私たちは単純に悪だと言わざるを得ません。

この危機に正しく対処すれば、私たちは、歴史を進歩させられるのです。ですから思うに私たちには、まさに現代的な基本的価値観が必要なのです。ポストモダン、つまり〈近代〉の後にやって来る危機を乗り越えるためです。そして基本的価値観とは「普遍主義」です。「自分があの人だったかもしれない」と認識することです。地中海で溺れている女性や、飢えている子供は自分だったかもしれない。それがすべての倫理観の原理です。

民主主義を信じるということ

今私たちが実践している民主主義は、意見の対立を調整するための特定の方法です。それ自体は、問題ありません。私たちにはこの方法の合意と継承が必要なのです。

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だから私はいつも民主主義を潜在的なコミュニティと定義しているのです。それが民主主義です。相手を受け入れれば、あなたは民主主義者です。みんなが自分に同意してくれる状態が好きなら、そうなると満足なら……批判されるのはイヤですよね? いい気分ではありません。ですが、それでもすぐに殺し合うのではなく、つねに相互に批判し合っている状態こそ、民主主義が機能している証拠なのです。それはむしろいいことです。

そして、民主主義が機能するのは、私たちが普遍的価値をこの仕組みのベースとして受け入れたときだけだということも、同時に認識しなければなりません。普遍的価値は他人や他の種の動物の苦しみを理解する人間の度量次第なのです。この度量が民主主義の基盤です。私たちがそれをあきらめて、民主主義の衰退を許せば、あっという間に崩壊するでしょう。

これがまさに現代の民主主義の危機です。繰り返します。民主主義の恩恵を享受する民主主義者が、民主主義を信じなくなる。それが危機なのです。民主主義を信じるということは、みんながきちんとした生活を送れるように助けようとする、ということです。

マネマガ
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引用元:東洋経済オンライン

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