『監獄のお姫さま』、男社会の性差別めぐる混乱を「笑い」に転換するクドカンの挑戦|マネブ

マネブNEWS:〔2018.10.23〕「第2のスルガ銀行」として首都圏の信用金庫の名が 現在の記事数:287354件

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『監獄のお姫さま』、男社会の性差別めぐる混乱を「笑い」に転換するクドカンの挑戦


火曜ドラマ『監獄のお姫さま』|TBSテレビ」より 第4話が終了し、いよいよ活気づいてきたドラマ『監獄のお姫さま』(TBS系)。

 脚本は、『木更津キャッツアイ』(同)や連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK)など数々の話題作を執筆している宮藤官九郎。2019年には大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(同)を手がけることも決定している、今もっとも新作が待ち望まれている脚本家だ。

『監獄のお姫さま』も、小泉今日子、満島ひかり、菅野美穂といった名だたる女優が出演し、放送枠が『逃げるは恥だが役に立つ』(以下、『逃げ恥』)や『カルテット』といった話題作を次々と生み出し、ドラマファンの間で今もっとも注目されている「火10」(TBS系火曜夜10時枠)とあって、放送前から話題となっていた。

パズル的作品でクドカンが描くテーマとは

 物語はコメディテイストのクライムサスペンスで、馬場カヨ(小泉今日子)たち元女囚たちが、イケメン若社長・板橋吾郎(伊勢谷友介)の息子を誘拐するところから始まる。実は、彼女らの目的は吾郎を拉致監禁することで、吾郎の犯した罪を被って刑務所に入った元婚約者・江戸川しのぶ(夏帆)の冤罪を晴らすことだった。

 第1話では、馬場カヨたちが吾郎を拉致監禁するまでが描かれた。いきなりニュースバラエティの『サンデー・ジャポン』(TBS系)に吾郎が出演している風景から始まるといったトリッキーな演出に驚かされたものの、各登場人物の背景がわからないまま事件だけが描かれるので、いまいち物語のなかに入ることができなかった。

 しかし、第2話以降、彼女たちのキャラクターと女囚となったバックボーンが描かれることで、物語の厚みがどんどん増している。

 吾郎を拉致監禁した2017年のクリスマスイブと刑務所にいた女囚時代という、現在と過去を行き来する構成なので、最初はとっつきにくい。しかし、徐々に物語の全貌が見えてくると、第1話の時点ではわからなかったやりとりの意味がわかってくる。おそらく、全話を見終わるまで、その全貌がわからないパズル的な作品なのだろう。

 基本的には楽しいやりとりの多いコメディなのだが、本作で宮藤が描こうとしているのは「フェミニズム的な連帯」ではないかと思う。

 社会的弱者である女性たちが団結して、自分たちを苦しめる男とその背後にある男社会に立ち向かう。そんな物語は、今のテレビドラマでは珍しいものではないが、本作が突出しているのは馬場カヨたちが戦う吾郎と男社会の描き方だ。

 第1話では、吾郎は言いがかりに近い理由で拉致監禁されたように見えるため、若干かわいそうに思えたが、物語が進むにつれて、彼のなかにある狡猾で女性差別的な側面が露わとなってくる。そんな吾郎に、それまで馬場カヨたちを苦しめてきた男たちの姿が重ねられていく。

 回想シーンでは、吾郎を演じる伊勢谷友介が別の男性を演じ、彼女たちを傷つけるようなセリフを言うのだが、1人の人間が複数の男性を演じることで、男を一塊の群体として見せる演出が実に効いている。性差別を反転して「笑い」に昇華させたクドカン

 同時に、本作では馬場カヨたちが拉致した吾郎を椅子に縛りつけて尋問している途中で「乳首、立ってる」と言うような、セクハラする場面が繰り返し登場する。コミカルに描かれてはいるが、女性たちが普段無自覚にさらされている性的な暴力を反転させて描いているのがわかるからこそ、見ていていたたまれない気持ちになる。

 男社会における性差別の問題を取り込むことは、今の脚本家にとって必須条件となりつつある。『逃げ恥』や連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)などは、それを意識することで、きわめて現代的な理想の男女関係や労働のあり方を描くことに成功した作品だった。

 対して、宮藤が本作でやっていることはもう少し入り組んでいる。男社会の差別に苦しめられている女性たちの立場に立ちながら、理想だけを描くのではなく、そういう「政治的な配慮」が求められるようになった社会で起きている混乱や戸惑い、それ自体を笑いにしているのだ。

 一番わかりやすいのは、繰り返し出てくる「おばさん」という言葉の使われ方だ。もともと、本作は宮藤が「おばちゃんがおしゃべりをしているところを書いているときが一番楽しい」という動機からスタートしたのだが、「おばさん」という言葉は、使い方によっては中年女性に対する差別的な言葉になってしまう表現である。

 そんななかで宮藤がおもしろいのは、おばさんの行動や考え方のおもしろさを描くと同時に、それをいかに差別的にならず魅力的なものとして見せるかに腐心しているところだ。

「おばさん」という言葉は、吾郎のような男性が言うと差別的な意味合いを持つが、馬場カヨたちが自分で「おばさんだから」と言うときは、とても肯定的な言葉に聞こえる。

 宮藤は「週刊文春」(文藝春秋)のエッセイで「脚本の言葉が直されることが近年増えている」とたびたび書いていたが、本作では、その問題についてもかなり踏み込んでいる。

「おばさん」という言葉ひとつをとっても聞こえ方は多様であり、言う人によってまったく別の文脈を帯びてしまう。そのズレを「笑い」として、宮藤は描いているのだ。(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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引用元:ビジネスジャーナル

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