堤大介氏が高校生に説く「why?」の重要性世界的イラストレーターが半生を語った|マネブ

マネブNEWS:〔2017.08.23〕売れているビジネス・経済書200冊ランキング「改 現在の記事数:246213件

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堤大介氏が高校生に説く「why?」の重要性世界的イラストレーターが半生を語った


アニメーターの堤大介氏。東北から米国を訪問した100人の高校生を前に、情熱を傾ける力と、WhatとWhyをつねに考え続けることを訴えた(筆者撮影)

「皆さんは自分のことをクリエーティブだと思いますか?」

米国の最高学府のひとつ、カリフォルニア大学バークレー校の講堂で、アニメーターの堤大介氏が100人の日本人高校生に向かって問いかけた最初の質問だった。Yesと答えたのはたった8%。米国やドイツの5分の1以下であったことに、壇上の堤氏はショックを受けたと話す。

問いかけた相手は、東北の被災地域から米国カリフォルニア州バークレーでの3週間のリーダーシップ育成プログラムに参加した高校生。ソフトバンクが2012年から毎年行っている「TOMODACHIプロジェクト」の6期生だった。

堤氏は、アニメーション制作という仕事柄、創造性を追究する毎日を過ごしている。「絵を描くのが好きだった」というが、もともと才能があったわけではなかったと振り返る。ただ、高校時代まで培ってきた「情熱の傾け方」が役立った。

最初から絵がうまいわけではなかった

堤氏は、ニューヨークでアートを学び、米国のアニメーションスタジオを経て、その最高峰となるピクサーでアートディレクターを務めてきた。映画『トイストーリー3』や『モンスターズ・ユニバーシティ』では、映像作りに最も重要とも言われるライティングを中心に、作品の世界観を作り上げる役割を担った。

その間に、1冊のスケッチブックを世界中のアーティストに手渡しで絵を描いてもらう「スケッチトラベル」という4年半にも及ぶ企画を発案したり、創造力を発揮する日々を過ごしてきた。

ピクサーにいながら同僚と自主制作した作品『ダム・キーパー』が、2015年のアカデミー賞にノミネートされ、現在は「トンコハウス」というスタジオで活動している。

堤氏は、野球少年として高校時代までを過ごし、渡米してニューヨークで絵画と巡り合ってSchool of Visual Artsへ進学。そしてLucas Learning、Blue Sky Studioなどで『アイスエイジ』や『ロボッツ』といったアニメーション映画のコンセプトアートを担当する華々しいキャリアをたどった。

ただ本人は、「正直、逃げたようなものだった」と振り返る。

「ずっと野球をやってきた小学校、中学、高校時代。当然、目指していたのは甲子園でしたが、それはかなわず、受験勉強もしていない状態で高校3年の秋を迎えました。野球というやりたいことがなくなり、先が見えなくなっていたのです」

そしてニューヨークで通っていた短大で絵画に目覚め、アートの道に進み始めた。

「自分にとって、高校時代まで情熱を傾けていたのは野球でしたが、それがなくなって、次に情熱の対象となったのが、絵でした。英語ができなくても受講できる絵画のクラスで、ものすごく褒められたのがきっかけで、それ以来、まるで甲子園を目指して野球に打ち込んでいたときのように、絵を描くことに打ち込み始めました。後から聞けば、先生はクラスのみんなを褒めていたそうですが……」

アートとアニメーションの仕事は、野球で培ったチームワークと絵を描くことを融合させた姿だったという。ピクサーに移ってからは、ほかのスタジオとは違い、「思いっきり作品に情熱を傾けてもいい場所」であることがありがたかったという。

ほかのスタジオでは「やりすぎ」は是とされなかったというから、日本も米国も、出るくいは打たれる環境があることには変わりないようだ。

whatは突然なくなるかもしれない1冊のスケッチブックが世界中のアーティストの間を旅した「スケッチトラベル」。最後のアーティストは宮崎駿氏で、その収益はチャリティーとして、途上国の図書館建設に生かされた(筆者撮影)

堤氏は、『ダム・キーパー』をきっかけにピクサーを辞め、独立した。大好きな絵を描くことを最高の環境であるピクサーで仕事として続け、非常に満足していた30代が終わろうとしていたとき、「なぜ絵を描くんだろう」という気持ちが芽生え、しだいに大きくなっていったからだという。

何をしたいか、つまり「What」は、突然なくなることもある。堤氏は、甲子園に行けなかったことで、野球という目的がなくなる状況に、高校3年生で突然、襲われた。同時にピクサー時代、絵を描くという目的が、「Why」に変わるという形で、突然、目的ではなくなってしまう経験もまた、堤氏に訪れたのだ。

「スケッチトラベルで、尊敬する大好きなアニメーション作家で『木を植えた男』でも有名なフレデリック・バックさんに会いに行ったとき、当時86歳だった彼が“才能は、世の中に光を照らすためにある”と話してくれました。そこで、「なぜ?」という問いかけに対して、「世の中に光を照らしたい」という理由を見いだし、再び新しい形でアニメーションへの情熱を傾けられるようになったのです」

バック氏の言葉は、アニメーション制作にかかわるという目的からすれば、最高の環境であるピクサーを辞めて新しいチャレンジをしようと踏み切る決心をする、堤氏にとっての金言となった。

堤氏は「箱の中に当てはめて考えるのをやめよう」と話す。つねに「なぜ?」と問い続けることが、次に進む道をいろいろな方法から導き出すきっかけになる、と語りかけた。

トンコハウスは、ピクサー時代に『ダム・キーパー』を制作した日系米国人、ロバート・コンドウ氏と共同で設立。アカデミー賞へのノミネートが決まる前に、2人でピクサーを辞め、2014年に独立した。

名前の由来は「豚」と「狐」。アニメ制作会社にある「スタジオ」と名付けず「ハウス」とした理由は、いろんな人が訪れたり、帰ってきたりする場にしたかった、という思いがあった。その思いどおり、さまざまな新しい才能が、トンコハウスに集まってきている。

8月4日からHuluで配信される短編『ピッグ 丘の上のダムキーパー』。ピクサーからの新たな仲間を加え、カリフォルニアと日本のスタジオでの制作態勢が取られている(筆者撮影)

同じくピクサーの同僚で、『メリダとおそろしの森』『インサイドアウト』『ファインディング・ドリー』でアニメーターを務めたエリック・オー氏もトンコハウスに参加。同氏が監督を務める新しい作品『ピッグ - 丘の上のダム・キーパー』が、トンコハウスの最新作品だ。

『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』 は、8月4日から、毎週金曜日にHuluで配信されている

セリフのない無声映画ながら、柔らかい世界観と、時にはシュールさや笑いをもたらしながら、かわいらしいキャラクターの内面が描かれている、心温まる5分間。日々の生活の中から共感を呼び起こしたり、心洗われる気持ちになったり、見る者の感情をついつい揺り動かしてしまう、そんな作品に仕上がっている。

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堤大介氏は、トンコハウスのプロジェクトについて、「トンコハウスのミッションのひとつに、米国と日本というアニメーション大国のコラボ」というテーマを掲げており、今回の短編作品についても、カリフォルニアと日本を拠点とした態勢で制作に取り組んだという。

9月には3部作のグラフィックノベルの第1巻がリリースされ、この3冊を基にした長編映画を2020年の公開を目指して、制作中だ。

「高校生のとき、絵なんて描いたことがなかったし、絵の勉強をしているときも、将来、自分がアニメーションスタジオを開くなんて思っていなかった。でも、“なぜ”を明確にすることで、やることや目的がつながっていきます。これからも、見ている人に何かを伝えたい。そのために、箱や枠の外に出て考える。そんな能力を育てることが、クリエーティブなんじゃないか、と思います」

東北から来た100人の高校生へのメッセージは、少しでも閉塞感を感じたことのある大人にも、強く響く言葉となった。

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引用元:東洋経済オンライン

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