1台のスマホが照らす豪州難民施設の真実収容中のジャーナリストが実名で内部告発|マネブ

マネブNEWS:〔2017.04.25〕客を強制降機のユナイテッド航空、成田発機内で残虐 現在の記事数:238885件

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1台のスマホが照らす豪州難民施設の真実収容中のジャーナリストが実名で内部告発


クルド人難民ジャーナリスト ベルーズ・ブッカーニさん(写真:本人提供)

今、オーストラリア人女性が手掛けた告発ドキュメンタリーが世界で物議を醸している。タイトルは『Chasing Asylum(チェイシング・アサイラム=難民追跡)』。オスカー賞を受賞したエバ・オーナー監督が、オーストラリアの難民政策の闇を暴いた作品だ。

舞台は、オーストラリアの近隣の島国・ナウルやパプアニューギニアのマヌス島。美しく透き通る青色の海に囲まれたこれらの島国で起こっている、難民申請者たちへの劣悪な待遇や人権侵害の実態を取材している。

彼らはオーストラリアへの移住を目指してイランやアフガニスタンからボートで海を渡ってきたものの、念願の国へ上陸する夢をかなえられることなく強制的に海上で拿捕され、これらの島国の収容施設へ移送されてきた。

アメリカのドナルド・トランプ大統領とオーストラリアのマルコム・ターンブル首相の電話会談で、この難民収容施設が取りざたされたのは、「トランプの難民排除、知られざる意外な矛盾」(2月1日配信)、「トランプ劇場に踊らされ見失いがちな『本質』」(3月4日)で報じた。

パプアニューギニアのマヌス島などにあるこれらの施設は、国際社会から人権侵害などと非難を浴びている。オーストラリアは難民や難民申請者がボートで直接入国することを認めておらず、この施設に収容されると、二度と本土の土を踏むことはできない。

筆者がその後もこの収容施設の行方をウォッチングしていると、興味深い動きが出始めてきた。

トランプ電話会談で注目浴びた難民収容施設 

この収容所に4年近く収容されている難民申請者のクルド人ジャーナリスト、ベルーズ・ブッカーニさん(33)が、決して取材を許されない施設内部の状況をひそかにスマートフォンで撮影し、発信し始めている。

彼の連絡先をインターネット上で探したところ、フェイスブック上にアカウントがあった。「まさか返信はそんな簡単には返ってこないだろう……」。ダメ元で友達リクエストを送り、メッセンジャーアプリで日本からメッセージを送ってみた。すると、数分後にリクエストが承認され、少したどたどしい英語でこんなメッセージが返ってきた。

「ハロー。(FBで)つながってくれてありがとう。今はまだマヌス島にいます。この収容施設と、私のジャーナリストとしての施設内部からの活動について、ぜひ話しましょう」。そう書かれたうえで、電話番号と、欧米諸国で主流のメッセンジャー・アプリ・ワッツアップ上でもメッセージができる旨、記されている。

すぐに返信を送ると、今度はなかなか反応がない。翌日の午後になっての返信には「この施設内部はインターネット速度がすごく遅いので……」というメールが来た。そこから、お互いのメールアドレスを交換して、早速密なやり取りを始めた。

クルド人ジャーナリストがスマホ発信に至るまで

イランで1983年に生まれたクルド人のブッカーニさんは、テヘランにある大学で、地政学の修士号まで取得して卒業した。

記者志望だったブッカーニさんは地元に戻り、イランの複数の新聞社に寄稿するなどフリーのジャーナリストとして精力的に働いていた。そんななか、2013年2月17日、同じクルド人の同僚たち11人が突如逮捕されるという悪夢が起きた。偶然その日はテヘランに外出していたブッカーニさんは、幸運にも逮捕を免れた。しかし、その仲間たちの逮捕事実を早速記事にして発表したため、自らの身の安全にも恐れを抱くようになり、3カ月間にわたって身を隠して暮らすことになる。

身を潜めた生活にいよいよ限界を感じ始めたブッカーニさんは、2013年5月23日イランを逃れ、オーストラリアへボートで向かうことを決めた。年老いた両親はオーストラリア行きを望まず、住み慣れたイランにとどまることを選び、家族は離れ離れとなった。しかし、書くことすらままならなかった抑圧された暮らしから、ようやくジャーナリストとして再び生きられる――。

難民申請をしたものの

そんな思いを胸にインドネシアを経由してボートに乗り込んだが、75人の難民認定申請者とともにオーストラリアの海軍に途中で捕らえられてしまう。オーストラリアに難民申請をしたものの、近隣のクリスマス島(オーストラリア連邦領)に抑留された後、その年の8月にマヌス島の収容施設に移動させられた。

当初、オーストラリアに向かうボートの上で、彼は希望を持っていたという。なぜなら「オーストラリアは、とてもモダンで民主的な国であり、リベラルだ。上陸できたら彼らは僕をジャーナリストとして受け入れてくれるだろう」と信じていたのだ。そのため、クリスマス島に着いたとき、こう尋ねたという。「私はジャーナリストですが……」。しかし、担当者は耳も貸さずに、そのままマヌス島へ収容された。

『豪州政府は、密航業者を利することを理由にボートでの入国を例外なく一切認めない強硬策を取る』(写真は豪州政府HPより)

ジャーナリストから、一瞬で施設の収容者となってしまったブッカーニさん。しかし、かすかな希望を捨てることはなかった。施設内には、アフガニスタンやイラクから戦火を逃れ避難してきた、本来難民認定されるべき収容者たちが多数含まれている。いつ施設を出られるかわからない中で人生の先行きが見えず失望している同胞たちのために、収容所内の実態を明らかにしようと、発信を始めたのである。

施設内の実態は今、国際社会から「人権侵害だ」と強い非難を浴びている。

収容所での児童への性的暴行や劣悪な医療体制、さらには拷問などが報じられおり、ジュネーブの人権委員会には、処遇を批判した国際連合の報告書が提出されている。とりわけ、医療体制の劣悪さは際立っており、ブッカーニさん自身も自らが発信した記事の中で、こう述べている。

「2年以上の間、私は歯痛に悩まされていた。幾晩もの間、痛みに耐えてきたが、医療を受けることはできなかった。2本の歯を失ってとうとう、2年間待ち続けてきた歯科医の治療を受けることができたのだ」

たかが歯痛と思うかもしれないが、一晩でも激しい歯痛を我慢するのはかなりつらいはずだ。それを、歯を失うまでの“2年間”にわたって歯科医の治療を受けられずに耐えてきたことは、決して人道的とはいえない環境に置かれていることが想像できる。まして、この施設内には、すでに正式な難民認定を受けているにもかかわらず、行き先が定まらず留め置かれている難民も多い。本来、適切な居住環境を受けるべき資格を持つ人々でさえ、満足な医療も受けられない現状が、世界のさまざまなメディアから厳しく批判されている。

パプアニューギニア・マヌス島の難民収容施設の日常(写真:ベルーズ・ブッカーニ氏提供)ここにいて身の安全を感じたことがない

ブッカーニさんはこうした内部からの発信に、初めの2年間は決して、実名を使わなかった。自らの身に危険が及ぶことを避けるため、匿名にする必要があったのだ。1度、警備員が部屋を突然訪れ、ブッカーニさんのスマートフォンを取り上げた。「お前には携帯を持つ権利がない、もし持ち続けるならば将来悪いことが起こるだろう」と脅されたという。

ところが、しだいにBBCや英紙ガーディアンなど世界の大手メディアがブッカーニさんの存在を知るところとなり、国際的なジャーナリズム団体などのサポートを徐々に得られるようになると、当局から脅しや妨害などが入る懸念はなくなったと判断し、実名での発信に切り替えたという。その後、フェイスブックやツイッターなどのSNSのみならず、英紙ガーディアンやハフィントンポストへの記事の寄稿を通じて、日々収容施設内の実態を訴えている。

「私はここにいて身の安全を感じたことはありません。彼らは僕のSNSのやり取りをつねに監視している。しかし、ジャーナリストとして発信しなくてはならない施設の現実がある。今、僕からスマホを取り上げることは、(人権上)できないはずだ。もしも取り上げたら、この収容施設内は外界との接触を遮断され、完全に孤立してしまうでしょう」

彼は、4年経ってだいぶ上達してきたという英語を使って、そうメッセージを送ってくれた。

パプアニューギニア・マヌス島の難民収容施設で働くスタッフ(写真:ベルーズ・ブッカーニ氏提供)スマホで発信される知られざる内情

彼のSNSをチェックしていると、公式発表では知りえない内部の最新事情も見えてくる。

たとえば、かのドナルド・トランプ大統領とターンブル首相の電話会談で話題となったさなか、渦中の難民たちは一体、どのような思いであの電話会談の報道を見ていたのか。

「もはや何も信じられない。目まぐるしく変わる報道の内容に、何を信じたらいいのかわからず、見えない先行きに希望を失っている状態だ」。ブッカーニさんは、仲間たちの落胆した思いを打ち明ける。

当初、オバマ政権下では、オーストラリア政府との間で彼らがアメリカに難民として引き取られる合意がなされていた。だが、トランプ政権になり、その取引の行方はにわかに不透明になったのだ。

この状況を早速、ブッカーニさんは記事にした。

タイトルは「トランプ大統領は”悪夢”か―彼は我々の自由への夢を打ち砕いた(ハフィントンポストオーストラリア版)」。

「トランプ大統領は、世界中の多くの人々にとって悪夢かもしれないが、ここマヌスとナウルに収容されている難民にとっては、日々の現実の中で、とりわけ悪夢となっている」という文から始まる。

この記事の中で、ブッカーニさんはバラク・オバマ前大統領との難民取引の合意がなされた当時について、こう述べている。

「われわれ難民は当時、オバマ大統領に手紙を書いた。このオーストラリアの収容施設からアメリカへ連れ出してほしいと。すると夢のようなすばらしいニュースである朝目覚めた。オーストラリアの首相が、マヌスとナウルの難民がアメリカに行けるだろうと公式に発表したのだ。われわれ難民はこのニュースに本当に喜んだ」

この喜ばしいニュースの後、収容施設内での難民たちの話題はもっぱら、アメリカ大統領選の行方となった。難民に対して厳しい姿勢を示すトランプ大統領が勝利した暁には、この合意の行方が不透明になってしまうのではないか――そんないささかの懸念を胸に、日々大統領選の報道を皆で注視していたという。

まさかのトランプ大統領誕生ののちは、日々将来への不安にさいなまれることとなった。トランプ大統領が、このオバマ政権下で合意した難民取引について「ばかげた取引だ」などとして突然ツイートで怒りをぶちまけるなど、夢見ていたアメリカ行きの可能性がいよいよ、不確実性を帯びてきたからだ。

大きな不安の渦の中

はたして、ここから何年の間、またこの収容施設に留め置かれるのだろう、トランプ大統領は再び考えを変える日は来るのだろうか――。今、難民たちは大きな不安の渦の中、日々を過ごしているという。

ブッカーニさんによると、最近になってアメリカ政府の関係者が取引の履行に向けてなのか視察に訪れ、指紋や写真などを取り、一部の難民認定申請者らに対し面談を行ったという。だが、はたして何人の収容者がいつアメリカに行けるのか、具体的なことは見えてこない。

ブッカーニさん自身も、「自分がアメリカに行けることになるのかまったくわからない状態だ。仮に行けることになったとしても、この施設に収容されている仲間たちの正義が確保されなければ、自分だけ離れることはしがたい」と考えているという。

やり取りの最後に、少しでも収容施設内での生活の癒やしになればと、桜が満開の日本の風景写真を送った。

筆者がブッカーニさんに送った写真(写真:筆者撮影)

「日本は美しいですね……いつか、訪れてみたい。きっとすばらしい国なのだと思います」

近く、またこの収容施設内の状況は動くかもしれない。スマホを通じた難民施設からの訴えは、いま着実に世界に届き始めている。

マネマガ
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引用元:東洋経済オンライン

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