安倍政権、野村不動産の過労死を隠蔽…裁量労働制を推進で、無給の長時間残業拡大|マネブ

マネブNEWS:〔2018.09.20〕<新興国eye>ハンガリー中銀、政策金利据え置き 現在の記事数:286376件

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安倍政権、野村不動産の過労死を隠蔽…裁量労働制を推進で、無給の長時間残業拡大


安倍首相(Natsuki Sakai/アフロ)

 今国会の目玉である「働き方改革関連法案」のなかで、現行の企画業務型裁量労働制の対象を営業職などに拡大する部分が削除され、国会提出が見送られた。最大の理由はデータのねつ造や事実の隠蔽による政府の“偽装工作”が露呈したことにある。

 事の発端は安倍晋三首相が1月29日の国会答弁で「厚生労働省の調査によれば裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般的労働者より短いというデータもある」と発言したことだ。だが、その元となる厚労省の調査自体が客観性を欠く不適切なデータであることが判明した。

 もう1つの厚労省の外郭団体である独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(『裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果』2014年6月)では一般労働者よりも裁量労働制の適用労働者の労働時間が長いという調査結果が出ていた。

 3月23日の衆院厚生労働委員会で加藤勝信厚労大臣は精査するとしていた元のデータについて「実態を反映したものとは確認できなかった。裁量労働制のデータそのものについて撤回する」と発言した。つまり、一般労働者に比べて裁量労働制の労働者の労働時間が「短くなる」というデータは存在しなかったのである。政府のデータ偽装による最初の“騙し”である。

野村不動産問題

 2番目が、野村不動産の裁量労働制の違法適用に対する特別指導に関する政府の発言である。安倍首相は1月29日の国会答弁で「野村不動産は、本来制度の対象にならない方までも裁量労働制の対象として扱っていた。政府としては、制度が適正に運用されるよう、今後とも指導を徹底する」と発言。加藤厚労大臣も2月20日の国会答弁で「野村不動産をはじめとして適切に運用していない事業所等もありますから、そういうものに対してしっかり監督指導を行っている」と発言している。

 つまり、裁量労働制を営業職に拡大しても「政府は監督指導を徹底しますのでどうぞご安心を」と言っているのである。ところが安心するどころか、東京労働局が野村不動産を特別指導したのは、同社の50代の社員が過労自殺して労災認定を受けたことがきっかけであることが、あとでわかった。すでに過労死が発生したあとの監督指導では意味がない。政府は過労死の事実を隠蔽したまま「監督指導するので安心を」と強弁した。これが第2の“騙し”である。

 さらに裁量労働制の適用に関して、17年に全国の272の事業所で是正勧告や指導を受けていた事実を、厚労省は3月22日の野党の合同ヒアリングで明らかにしている。現行の裁量労働制にしても、いいかげんな適用をしている企業がかなりあるということだ。矛盾孕む「立法趣旨」

 このように問題の多い裁量労働制に加えて、政府が冒した最大の過ちは、「立法趣旨」そのものが矛盾していた点だ。そもそも新しい法律をつくる、あるいは法律を改正する場合は、正当性を担保する事実なり、人々が納得できるような立法趣旨が求められる。

 裁量労働制拡大の是非はさておき、政府は当初から「働き方改革関連法案」について日本の長時間労働体質を変えていくことを立法趣旨に掲げていた。その方策の一つとして、これまで法律上は青天井だった労働時間に上限を設けること(罰則付き上限規制)。もう一つが自分の裁量で働く時間を決められ、出社・退社が自由にできる「裁量労働制」の拡大と「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」の創設である。

 政府は、自由な働き方ができると労働時間も短くなり、子育てや介護に時間を割くことができ、仕事と家庭の両立が可能になると主張してきた。裁量労働制には企画業務型裁量労働制(企画型)と専門業務型裁量労働制(専門型)の2つがあるが、実際の労働時間が9時間や10時間であっても、会社が見なした労働時間が8時間であれば、割増賃金(残業代)を支払わなくてもよいとする制度だ。

 たとえば、みなし労働時間を9時間とした場合、法定労働時間の8時間を超えているので、1時間分の割増賃金を織り込んだ手当をつける必要がある。政府は企画型について新たに法人営業職などに拡大しようとしていた。確かに出勤・退勤の自由があり、自分の裁量で業務量が調整できれば、政府が言うように長時間労働は減るかもしれない。

 だが前述したように、実態は短くなるというデータは存在しなかった。しかも裁量性についても実態を見ると疑問だ。先に紹介した労働政策研究・研修機構の「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果」によると、日々の出退勤において「一律の出退勤時刻がある」と答えたのは専門型の社員が42.6%、企画型が49.0%の割合を占めている。半数近くの人が、会社によって出退勤時刻で縛られている。しかも、企画・専門型の社員の40%超の社員が遅刻した場合は「上司に口頭で注意される」と答えているのだ。 また、労働政策研究・研修機構は4月16日、野党議員の求めに応じてこの調査の「自由記述欄」を公表している。それによると会社で企画型の適用を受けている社員から以下のような声も上がっている。

「朝の所定の時間から夕方の所定の時間まで、1日8時間の勤務が求められており、あまり裁量労働制の意味がないと思われる」

「現状では、残業代なしで会社のやらせたいことをやらせるだけの制度になっています。(弊社においては)部署が変わったので多少楽になりましたが、それでも月200時間は仕事をしています。制度を維持するなら、適切な労働時間、給与となるよう改善してほしい」

「どこまでが基準給与で、どこまでが裁量(みなし)かが不明確。しかも裁量がない。会社の都合(残業代支払いのほうが高くつくなどの理由)から、『みなし』となっている会社が多いように感じる」

 要するに「自由な裁量」を謳いながらも、長時間労働で「不自由な働き方」をしている人が少なくないのだ。

高プロ制度の前提崩壊

 裁量労働制を拡大すれば「日本の長時間労働を減らす」という政府答弁は、明らかに矛盾している。それに照らせば、今国会に提出された新たに創設される「高度プロフェッショナル制度(高プロ制度)」も同様に、労働時間が短くなることはないはずである。高プロ制度は裁量労働制と違い、深夜労働や休日労働の残業代も支払う必要がなく、法律に定めている休憩・休息時間を付与する必要もない。労働時間規制を適用除外とするアメリカのホワイトカラー・エグゼンプションと同じものだ。

 もちろん高度の専門職であること、年収が「平均給与額の3倍を相当程度上回る」という条件がついている(具体的には年収1075万円以上)。政府は条件が限定されているし、会社側と交渉力のある労働者にしか適用しないと説明している。

 だが「交渉力のある労働者」とは「この条件はのめないので、会社を辞めて他社に行きます」と言えるぐらいのバーゲニングパワーを持つ人のことだ。はたして政府が言うような「自律的で創造的な働き方」ができる人がどのくらいいるのかは疑問だ。

 現行の裁量労働制についても本人の同意が必要であるが、先の労働政策研究・研修機構の自由記述欄ではこんな声も上がっている。

「誓約書にサインしなかった者に不利益人事と思われる事象が出ており、実質的に強制されている点も承伏しがたい」

 もちろん人事関係者のなかには高プロ制度を歓迎する声もある。大手自動車関連メーカーの人事担当者は、こう語る。

「社員のなかには時間を気にしないで思う存分働きたいという人もいるのは事実。スキルアップしたい、キャリアを積みたい人にとっては残業規制で会社を閉め出されても外や自宅で仕事や勉強をしているはずです。会社としても技術開発に携わる専門職には労働時間に関係なくマイペースで働いてもらいたいという思いもあります」

 時間を気にしないで思う存分働きたい、あるいは働かせたいという気持ちもわかる。だが、その思いと今回の「長時間労働の削減」という政府の立法趣旨とは明らかに異なる。裁量労働制の延長である高プロ制度が長時間労働の削減につながる、自由な働き方ができるという建て前が崩れた以上、国民を納得させる立法趣旨を政府が提示できない限り、法律を成立させるのは無謀というしかない。(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)

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引用元:ビジネスジャーナル

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