小泉進次郎が憂慮した東京五輪のおもてなしこのままでは1500万食を国産食材で賄えない|マネブ

マネブNEWS:〔2017.12.14〕13日の債券市場見通し=軟調地合い、米利回り上昇 現在の記事数:252855件

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小泉進次郎が憂慮した東京五輪のおもてなしこのままでは1500万食を国産食材で賄えない


2017年7月、農林部会長時代に農業視察をする小泉進次郎現自民党筆頭副幹事長(写真:共同通信社)

2017年1月16日、自民党の小泉進次郎農林部会長(当時)が都内での講演のあと、記者団に2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京大会)でのおもてなしに危惧があることを明らかにし話題となった。選手村の食堂で「国産農産物」をほとんど提供できないおそれが出ているためだ。

「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」(以下、組織委員会)は選手村などで提供される食材について、食の安全や環境保全などを要件にした調達基準(持続可能性に配慮した調達コード)を策定した。この基準は、大会の準備・運営段階の調達プロセスにおいて、持続可能性にも配慮した調達を行うために策定したものだ。

調達する物品やサービスに共通して適用する基準や運用方法について定めている。たとえば、農産物、畜産物などに個別の調達基準を設けている。それを満たすためにGAPの認証取得を求める方針を固めているのだ。

GAPとはGood Agricultural Practice(農業生産工程管理)の略だ。国際的にも広く活用されているのが、ヨーロッパ発祥のグローバルGAPだ。日本の場合、代表格は一般財団法人日本GAP協会が策定するJGAPだ。JGAPは日本の農業の実情に合わせて策定されているため、グローバルGAPに比べて取得は容易となっている。またJGAPを基に改良したASIAGAPも開発している。

現時点では、選手村などで提供される食事の安全性を担保する「お墨付き」として求められる、この国際規格の認証取得が日本の農家では進んでいない。すでに、欧米を中心に農産物の安全性などを第三者が認証する農産物の認証制度の活用が進んでいることとは対照的だ。

GAPへの対応はロンドン五輪から

GAPがオリンピックで求められるようになってきたのは、2012年のロンドン大会以降だ。「持続可能性」が特に重要な理念としてうたわれるようになってきたことが背景にある。

環境を破壊せずに経済成長は可能かという問いかけに始まるものであり、途上国の貧困問題や家畜への配慮なども含められ、広い概念に発展している。したがって、レベルの低いGAPで収めようとすれば、ロンドン大会、リオ大会と比較されることになり、国のメンツにもかかわってくる。

国際水準としての意味が強いグルーバルGAPを取得する必要が強調され、小泉氏もたびたびそうした発言をしている。それは、日本からの農産物輸出への後押しにつながるとの考えがあるからだ。グローバルGAPは、欧州などで農産物流通の事実上の前提条件となっている背景がある。

先の小泉氏は、国際的に通用しない国内GAPが普及しても、ガラパゴスGAPになるだけだと以前から指摘しており、海外展開を見据えた国際水準の認証を取得するよう訴えている。

だが、2016年時点で日本ではグローバルGAPは約400農家、JGAPは4000程度の農家しか取得しておらず、合わせても全体の1%未満だ(出所:2017/03/25付東京新聞)。GAPの普及が進まない背景には、認証の取得や維持などにかかるコストの高さもあげられる。グローバルGAPでは取得に数十万円、維持に年間20万~40万円かかる。そもそも販売先が国内だけなら未取得でも取引に支障はなく、メリットを国内の農家が感じにくいのが現実のようだ。

今年10月の衆議院議員総選挙では自民党福島県連が県版選挙公約でGAP取得の推進を入れており、選挙におけるアピール材料にまでなってきている。

アニマルウェルフェアの要件がカギに

次に畜産物におけるGAPへの対応をみていこう。食の観点から見ると日本の課題は畜産であることは明白だ。組織委員会が定めた畜産物の調達基準を見てみると、食品安全、労働安全、環境保全、アニマルウェルフェアの4つの要件を満たすものであることが明示されている。11月15日には農林水産省がアニマルウェルフェアに配慮した飼養管理を広く普及させるべく、地方農政局などに周知を依頼する通達を出している。

日本の畜産において、安全や衛生に関しては、細かな法令上の規制措置が講じられている。また、環境保全については家畜排せつ物法や廃棄物処理法、水質汚濁防止法などの規制が、労働安全に関しては労働安全衛生法などが適用される。そのため、これらの3項目については、現行法令の順守をベースに対応可能だ。問題は4つ目のアニマルウェルフェアだ。

アニマルウェルフェア(animal welfare)は動物福祉、あるいは家畜福祉と訳されることも多い。人間が動物に対して与える痛みやストレスといった苦痛を最小限に抑えるなどの活動により動物の生き物としての尊厳に配慮することを実現する考えだ。

犬や猫などのペットについては最近、関心の高まりがみられ、殺処分への批判も多い。家畜は産業動物、あるいは経済動物といわれる。家でペットを大事にする人も、食卓に並ぶ食肉が生きていたときに人間にどういう扱いを受けてきたかについては関心が薄いのが普通だろう。消費者が安い食肉を求めるあまり、畜産でも効率化が進み、工場型畜産が当たり前だ。

アニマルウェルフェアは人間が動物を利用することは可としながらも、飼育環境の整備や苦しみのない処分を求めている。一般的に以下の5つの自由が重要とされる。

・飢えと渇きからの自由

・不快からの自由

・痛み・傷害・病気からの自由

・恐怖や抑圧からの自由

・正常な行動を表現する自由 

しかし、日本ではこれを目的とした具体的な法規制がないのが現状である。一定の基準(ガイドライン)を記したものとして、公益社団法人畜産技術協会が発行している「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」が示されている程度である。この指針のもと、乳用牛、肉用牛、豚、採卵鶏、ブロイラー(肉用鶏)についてそれぞれ飼養管理指針が定められている(このほか、公益社団法人日本馬事協会が馬について策定)。

家畜は動物愛護法の対象外?

本来、家畜も動物愛護法の対象であるが、畜産業が同法の「動物取扱業」から除かれている。畜産動物に関する個別規定が同法にはないため、畜産動物は同法の対象から外されていると考えられがちだ。

なぜ、⽇本のアニマルウェルフェアへの取り組みが大きく遅れてしまっているのか。その理由は⽇本は畜産物の輸⼊国であり、輸出をしてこなかった国であることがあげられる。輸出をしないため、欧⽶でのアニマルウェルフェアの高まりに対し情報を仕入れる機会がなく、アニマルウェルフェアの認知度も低い状態にある。

組織委員会は畜産物の調達については、グローバルGAPかJGAPの認証を取れば、同基準に適合しているものとみなすとしている。JGAPは農産物については2007年に発表されたが、家畜・畜産物については今年3月になってようやく出来上がった。

それでも、動物福祉団体はJGAPの基準レベルに満足していない。グローバルGAPでさえ、アニマルウェルフェアの観点では十分とはいえないという評価だ。ロンドン大会では畜産に関しては英国内GAP「レッドトレクター」が主な調達基準となった(鶏卵は「ブリティッシュライオン」)。

NPO法人アニマルライツセンターは東京オリンピックに向けたサイトを作成した。今年9月からは、組織委員会が策定した畜産物の調達基準が低すぎるとして署名活動を行い、基準の見直しを求め始めた。仮に畜産物でグローバルGAP認証を得ようとした場合に、日本の畜産の現状を考えて特に問題になるのは採卵鶏のバタリーケージ飼育と豚のストール(檻)飼いだろう。

鶏卵についてのアニマルウェルフェア度の比較(写真:NPO法人アニマルライツセンター提供) 

バタリーケージとは連続した金網でできたケージ(かご)のこと。4段5段と天井までケージが積み重ねられ、1坪あたり126羽もの鶏を収容しているところもある。1つのケージは1羽あたり平均B5サイズ(257×182mm)ほどの面積しかなく、止まり木も1本のワラもない。

ここで卵を産ませられ続け、産まなくなったら廃鶏とよばれ、ゴミのように処分され、缶詰めの肉やペットフード、肥料などになる。ちなみに卵を産むのは当然メスだけなので、オスのヒヨコは不要品として生まれてすぐにゴミとして処分されたり、シュレッダーでつぶすなどして殺されている(採卵鶏は食肉に適さない)。

日本では繁殖用の母豚はストール飼いが一般的だ。母豚は体がぎりぎり入る大きさの妊娠ストールで飼育される。これだと管理や清掃が容易だからだ。豚は後ろを振り向いたり向きを変えることもできない。生まれた子豚は麻酔なしで牙を抜かれ、尻尾を切られ、オスは去勢される場合も多い。母豚は出産しなくなれば用済みとなり、お肉となる。

豚肉についてのアニマルウェルフェア度の比較(写真:NPO法人アニマルライツセンター提供)スポーツの祭典だけではないオリンピックの意味

オリンピックは「スポーツの祭典」であることは変わらないが、地球環境にやさしいオリンピックが目指され、「持続可能なオリンピック」を大きく打ち出したのは、2012年のロンドン大会からであった。

オリンピック・パラリンピックの環境への影響を考えれば、会期中の運営だけではなく、会場などの設営・建設、物品の調達などの基準が非常に重要だ。まさにオリンピックはこの美しい地球を次世代に残すための持続可能性を追求する知恵の祭典でもある。

2015年9月の国連サミットで採択され2030年までの国際目標とされているSDGs〔持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)〕の推進の観点でもオリンピックの経済発展と環境保全の調和は重要だ。近年、倫理的消費(エシカル消費)が主張されているが、これは環境に加え、人権などに重きを置く概念といえる。GAPはそうした考えを網羅するものだ。

建設が進む新国立競技場(中央)、奥は選手村のほか、有明アリーナなどが新設される臨海部=10月27日、東京都新宿区 共同通信社ヘリから(写真:共同通信社)

東京大会開催時に提供される食事量は現在算定中だが、2012年のロンドン大会では選手村で約200万食、期間中に提供された食事は合計で約1500万食だった。選手村ではピーク時に30分で1万食を提供していた。

その食材の生産、流通、調理、廃棄のプロセスにおける環境への影響、それに携わる者の労働条件等の人権確保、食材にされる動物への配慮にも人類は目を向けるようになり、この配慮が取引の必須条件になってきている。

日本の経済政策は事業者の意向を重視した過度なコンセンサス方式が特徴だ。

事業者をおもんぱかるあまりに改革の機会を逃し、社会の趨勢に遅れれば、むしろ産業は衰退する。遅すぎる決断にならないために対策を進めるべきだろう。

マネマガ
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引用元:東洋経済オンライン

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