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トランプはインド太平洋戦略を曲解している日本が中国への対抗策を提案したのに・・・


APECの演説でも「アメリカファースト」を強調したトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領の一連のアジア訪問では北朝鮮の核・ミサイル問題への米国の対応に注目が集まっている。しかし、その陰に隠れた重要なテーマがあった。それが「インド太平洋戦略」である。

トランプ大統領は10日のベトナムでの演説でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)のために集まった各国首脳を前に、「私はここで、地域の平和と繁栄のために、アメリカがインド太平洋地域の国々と、より強固な絆と友情で通商関係を新たにすることを提案したい」と高らかに語った。

大統領は日本訪問の際、横田基地でのスピーチでも「日本と共に自由で開かれたインド太平洋地域を構築していく」と語り、安倍首相は首脳会談後の共同記者会見で「自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力を強化することで一致した」と強調した。これだけを見ると日米両国が連携して新たな「世界戦略」への取り組みをスタートさせたかのように見える。

日本が提案、「インド太平洋戦略」は中国への対抗策

「インド太平洋戦略」は実は米国ではなく日本政府が考え出したものだ。

安倍首相の言葉を引用すると、「アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域は世界の人口の半分以上を擁する世界の成長センターです。自由で開かれた海洋秩序の維持、強化はこの地域の平和と繁栄にとって死活的に重要である」(2017年11月7日の共同記者会見)、あるいは「日本は太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧と無縁で自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育て豊かにする責任を担っている」(2016年8月27日の第6回アフリカ開発会議での安倍首相の基調演説)と説明している。

具体的には日米両国のほかインド、オーストラリアの4カ国が連携して、他のアジア諸国を巻き込んで地域的な連携の枠組みを作る構想だ。その場合のキーワードが、自由主義、民主主義、市場経済、基本的人権の擁護、そして法の支配という「普遍的価値」の共有である。

安倍首相は第1次内閣でも似たような構想を打ち出した。それは「自由と繁栄の弧」というもので、やはり自由や民主主義、市場経済などを掲げ、北欧からバルト三国、中央アジア、インド、そして東南アジアをつなぐ弧の形をした地域の各国にさまざまな支援をして政治的、経済的安定を促進するとしていた。「インド太平洋戦略」も同じような発想から生み出されている。

二つの戦略に共通しているのが「冷戦的発想」である。「自由と繁栄の弧」が中国とロシアを、「インド太平洋戦略」が中国を強く意識した、ある種の包囲網を作るという発想であることは言うまでもない。日米同盟関係を基盤に、そのほかの国々との連携を強化し、アメリカを中心に作られている現在の国際秩序や経済システムに挑戦する勢力に向き合おうという発想である。

日本政府は、中国が打ち出した「一帯一路」政策の狙いを、単に経済だけでなく政治や軍事的にも中国がインド洋からアフリカ地域まで影響力を強めていくことと分析している。特に中国が重視しているのが軍事的側面だとみている。南シナ海のサンゴ礁を埋め立てて軍事基地化したことと連動して、インド洋沿岸国、さらには中東やアフリカの海に面した国々との関係を強化して、この地域に強い影響力を持つ人民解放軍の「外洋艦隊」(Blue Water Navy)を構築することを目標としているとの認識だ。

そのためにはインド洋につながる国々との関係強化も不可欠であり、途上国のインフラ整備などを前面に出している「一帯一路」政策は中国の安全保障政策を補完する重要な役割を担っているとみている。ゆえに、中国のこうした戦略に対抗する必要があるとして、打ち出したのが「インド太平洋戦略」なのだ。

米国はアジアに対する包括的な政策を欠く

一方の米国だが、1月に発足して以後、トランプ政権が打ち出したアジアに関する政策はTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱くらいで、北朝鮮の核・ミサイル開発問題への対応に追われ続けている。そもそも国務省でアジア地域を担当する次官補がいまだに空席で、新たな対アジア政策の検討ができない状況だった。

今回のアジア歴訪に際しても、米政府の関心は、トランプ大統領が常日頃、主張している北朝鮮問題と訪問する日中韓3カ国との貿易不均衡問題だった。APEC首脳会議や東アジアサミットなどアジア諸国の首脳が一堂に会する会議が予定されているにもかかわらず包括的な政策は空白状態だった。

そこで日本政府はトランプ大統領の訪日について協議を重ねる中で、トランプ政権にまだ明確なアジア政策がないことを指摘し、今回の訪問の機会を生かして、アジア政策を打ち出すべきだと提案した。

米側がこの提案を歓迎したのはいうまでもない。日本政府が具体的に示したのが、安倍首相がかねてから主張していた「インド太平洋戦略」だった。トランプ大統領歴訪前の10月中旬、ティラーソン国務長官が米国とインドの関係についてワシントンで講演したが、その際「インド太平洋」という言葉を何度も繰り返して使いその重要性を強調した。それが日本政府による提案を受けての米政府の最初の発信だった。

トランプ大統領は意味や意図を理解していない

問題はトランプ大統領が「インド太平洋戦略」の意味や意図をどこまで理解しているかだ。

ベトナムでの演説でトランプ大統領は「自由で開かれたインド太平洋というビジョンを共有することは誇らしい」とは語ったものの、あとはこれまで繰り返してきた自国中心主義や国際協調路線の否定に終始した。

「米国はこれまであまり条件を付けずに関税を下げ、貿易障壁もなくし市場を開いてきた。そして外国の商品が自由に入ってくることを許した。ところが、他国は自分たちの市場を開放しなかった」、「WTOはその理想をいつか実現すると思っていたが実現していない」と、これまでWTOを中心に進めてきた国際社会の通商ルール作りを否定した。さらに「どの国も自国を第一に考えるように、私はアメリカファーストが大事だ」、「インド太平洋地域の国々が公平で互恵的な貿易という原則を守るのであれば、二国間の貿易の合意をしたい」と、多国間協議を拒絶し、二国間での交渉、条約締結を優先する考えを強調した。

同じ日、日本政府は米国が離脱した後のTPPについて、残った11カ国を何とかまとめて米国抜きの枠組みについて「大筋合意」にこぎつけていた。トランプ大統領がそんな動きに何の関心も持っていないことは明らかだった。

日本、中国、韓国と訪問先で首脳を相手に貿易不均衡の是正や米国の軍需品の購入を求め、肝心のAPECの場で、マルチの協議を否定し自国の利益追求を前面に出して二国間の取引を働きかけるトランプ大統領が、「インド太平洋戦略」の意味をまったく理解していないことは明らかだった。日本外務省幹部も「言葉は使ってくれたが、対中戦略としてどういう意味を持っているかなど、大統領は理解していない」と話していた。

中国は豊富な資金力で各国に働きかけ

中国はすでに豊富な資金力に物言わせて、東南アジア諸国を中心に道路などインフラ整備に積極的に取り組むほか、中国企業も各国に進出している。当然、中国の取り組みを歓迎する国が増えている。一方の日米印豪の4カ国はどうするのか。4カ国の参加する共同軍事演習や戦略対話など、安全保障政策上の動きが多少は目につくが、地域の中小国への関与をどうするのか具体策は見えてこない。

ASEAN(東南アジア連合諸国)の置かれてきた立場は複雑だ。カンボジアやラオスのように明確に中国寄りの姿勢をとっている国もあるが、多くは大国の間を巧みに渡り歩いて生き残っていくしかない国々である。したがって、「民主主義」や「市場経済」という理念はともかく、実利を求め動いていかざるを得ない。まさに構想力と実行力が問われるフェーズになっているのである。

つまり、中国の「一帯一路」と、日米の「インド太平洋戦略」は、この地域での「陣取り合戦」なのである。米国を中心に民主主義や市場主義を掲げる勢力が力を維持するのか、独自の世界観や国家観をもって米国中心のシステムに挑戦しようとしている中国が影響力を増すのか。そんな重要なタイミングで、自国の利益の追求にしか関心を持たないトランプ大統領が主要プレーヤーでは、珍しく日本がリーダーシップを発揮した戦略が成果を上げるのは難しそうだ。

マネマガ
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引用元:東洋経済オンライン

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