日本の美術館には、一体何が欠けているのか欧米で当たり前にやっていることとは?|マネブ

マネブNEWS:〔2017.12.18〕青函トンネルと新幹線「0系」の意外な関係世界最長 現在の記事数:253049件

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日本の美術館には、一体何が欠けているのか欧米で当たり前にやっていることとは?


英国の国立美術館、テート・モダン。もとは発電所だった建物をリノベーションしてできた。欧米では、古い建物とアートが見事にマッチングしている。館内の雰囲気はHPからも(写真:大林剛郎氏提供)欧米に比べ遅れている公的不動産活用をどうすればいいのか。経営と街づくりの視点から鋭く切り込む木下斉(一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事)、「共通価値経営」を標榜する野尻佳孝(テイクアンドギヴ・ニーズ会長)、リノベーションなどで優れた実績を誇る馬場正尊(オープン・エー代表/東京R不動産)の3人が、ホスト兼パネリストとして毎回ゲストを迎え、「新しい日本の公共不動産のあり方」をビジネス視点で考える「パブリック・アライアンス・トーク」。第7回のテーマは美術館・博物館など。ゲストは大林組の大林剛郎会長。多くの美術館の施工実績を持つ企業トップとしての顔だけでなく、コレクター、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の国際評議員を務める等、個人でも美術の面でグローバルな視点を持つ大林氏と熱い議論を繰り広げる(文中敬称略)。欧米は古い建物を「リノベ」してアート化するのも上手

――まず海外の著名な国立の美術館・博物館の事例を2つ紹介します。1つ目は年間680万人が訪れるロンドンの大英博物館です。無料の博物館として有名ですが、もともとは博物学者のハンス・スローン卿のコレクション品を英国が国家として買い、国の蔵書などを加え1759年に一般公開を開始。運営は非政府組織が担い、施設維持費は寄付やグッズ販売で賄われています。同じくロンドンにあるテート・モダンは、発電所をリノベーションして2000年にオープンした現代アートの美術館。やはり入場料は無料で、韓国・現代自動車のスポンサードを受け運営されています。

大林 剛郎(おおばやし たけお)/大林組会長。1954年生まれ。1977年慶應義塾大学経済学部卒業後、大林組入社。スタンフォード大学工学部大学院留学、修士取得。1983年取締役、2009年から現職(会長は2回目)。東京・森美術館理事、ニューヨーク近代美術館や英国テート美術館の国際評議員などの役員を務めるほか、アートコレクターとしても有名

野尻:入場料が無料なのはすごいことですが、運営費などの費用はすべてスポンサーフィーなどで賄われているということですか?

大林:常設展は入場料を取りませんが、企画展などは料金を取っています。ただ英国政府のサポートが手厚いですから、運営事情は日本の美術館とはだいぶ違いますね。

――続いて海外の民間美術館の事例です。2015年、イタリアのミラノにオープンしたプラダ財団美術館は、蒸留所だった建物をリノベーションしてできました。

大林:こういう古い建物に現代美術を展示するのがいちばんカッコイイ。新しい美術館を建てることもできるのに、わざわざ古い、違う用途で使われていた建物を買い取って、そこに展示しているんです。

――次もリノベーションされた事例です。アメリカ・テキサス州にあるチナティ・ファウンデーションは、アーティストであるドナルド・ジャッドが軍用施設をリノベーションして設立したものです。大型のインスタレーション作品を常設展示するための美術館で、敷地は1.4平方キロメートル(東京ドーム約30個分)あります。インスタレーション作品とは、オブジェだけでなく、取り囲む環境や風景なども含めてその空間全体をアートと見なす手法です。

軍用施設をリノベーションしてできたチナティ・ファウンデーション(写真:大林剛郎氏提供)

また、リノベーション物件ではありませんが、映画『ナイトミュージアム』の舞台となったアメリカの国立自然史博物館の取り組みも紹介します。ここでは子ども限定で館内宿泊ツアーを行っています。事前予約の必要がありますが、夕方から博物館内を見学した後は、大きなクジラが展示されているスペースで寝床に就くというもので、大変な人気を呼んでいます。

軍用施設のリノベから発展、街にもにぎわい木下 斉(きのした ひとし)/一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事。1982年東京生まれ。高校在学中に全国商店街合同出資会社の社長就任。一橋大学大学院商学研究科修士課程在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2007年熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地で「まち会社」へ投資、設立支援を開始。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス設立。内閣官房地域活性化伝道師なども務める

大林:私もテキサス州のチナティ・ファウンデーションには何度か行っていますが、近くにちゃんとした飛行場がなくて、僕の場合はラスベガスから大勢で、チャーターフライトで行きました。そのくらい辺鄙(へんぴ)なところにあります。

もともとドナルド・ジャッドはDIA美術財団(ニューヨーク郊外にある現代美術館「ディア・ビーコン」を設立したことで知られる芸術財団)の展示の中で活動するアーティストだったのですが、既存の展示手法に飽き足らなくなり、自分で美術館を手掛けたくなった。なので、ここでは彼が思い描いたとおりに展示されています。

野尻:今回、事務局が用意してくれた資料を事前に見ていて、いちばんインスピレーションを受けたのがこの施設でした。ぜひ行ってみたくなりました。

大林:行くのは大変です。いちばん近い空港からでも、車で3時間ほどかかりますからね。でも行く価値は十分にありますよ。

野尻 佳孝(のじり よしたか)/株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 代表取締役会長。1972年東京生まれ。1998年に独立しテイクアンドギヴ・ニーズを設立。2001年に株式上場、2006年東証1部。CSV(共通価値創造)経営を標榜、2017年3月に「ソーシャライジング」という新しい社会貢献をうたった、斬新なスタイルのホテル「TRUNK」を東京に開業

木下:実は、日本国内にも第2次世界大戦中に使っていた軍用施設がたくさんあって、戦後も自治体などによって管理されているのですが、管理している側の自治体は苦労していて、最近は「放出しようか」という話も出てきています。するとワイン貯蔵庫に、なんていう話になりがちなのですが、もう少し人が集まるような施設にしてもいいんじゃないかという意見も出ています。

馬場:現代美術なんかは、本当に似合いますよね。

大林:チナティ・ファウンデーションも、もともとはジャッドを含め、3人のアーティストを核とした常設展示をしていましたが、その後、常設展示は10人以上に広がり、全米を代表する美術の一大聖地となりました。アーティスト・イン・レジデンス・プログラム(アーティストを一定期間住まわせ、作品を制作してもらうこと)や地元コミュニティ向けのキッズ・アートキャンプなども行われています。美術館があるテキサス州マーファは、エリザベス・テーラーと、ジェームズ・ディーンが出演した映画『ジャイアンツ』の撮影地としても有名ですが、人がどんどん集まるようになって、この10年ほどで街もずいぶんと変わったそうです。

大林:では、日本国内の国立美術館も見ていきましょう。国立美術館は5つあり、すべて独立行政法人国立美術館が運営しています。東京国立近代美術館京都国立近代美術館国立西洋美術館国立国際美術館、そして国立新美術館の5館で、合計すると、約4万点以上の所蔵があり、年間400万人の来場者があります。年間予算は128億円。内訳は展示事業収入が約12億円、寄付金収入が6億5000万円です。さらに、運営費交付金として国から75億円と施設整備費補助金として35億円が支払われ、運営が成り立っている状況です。

野尻:128億円の収入のうち、国からの運営交付金が75億円もある。結構な額ですね。

大林:確かに少なくはないですが、それよりも、寄付金収入が5館合計で6億5000万円とは、極めて少ないですね。

日本には国立西洋美術館など国立の美術館は5つある。欧米に比べ、寄付金収入が少ないなど、運営の改善はまだまだできそうだ(写真:のびー/PIXTA)海外の美術館長のいちばん重要な仕事は「資金集め」

野尻:海外では財団が丸抱えに近い状態で運営している美術館もあると思いますが、収益を上げるのに来館者数というのは連動するものなのですか?

大林:運営資金を入館料だけで賄うというのはかなり難しいと思いますね。キュレーター(展覧会などを企画する学芸員)や修復スタッフなど、美術館は多くのスタッフを必要としていますから。ですから海外の美術館では、館長さんのいちばん大事な仕事はいかに多くの資金を集めるか、です。

お金持ちの所に足しげく通うし、世界中のコレクターを美術館の理事会や国内の評議員会やインターナショナルカウンシル(国際評議員会、海外在住の人物が中心)のメンバーに加えて、一生懸命巻き込んでいこうとします。面白いのは、そういう重要人物の配偶者(主に奥様たち)にも非常に手厚いフォローをしていること。女性は男性よりも長生きですから、ご主人が亡くなったらそのコレクションを寄付してもらおうという狙いです(笑)。

木下:しっかりしてますね(笑)。

大林:実にしっかりしています。そこには寄付に対する考え方や文化の違いがあります。また税制の違いもある。でもいちばん違うのは館長さんの努力です。日本では、民間の美術館の中にはそういう取り組みをしているところも見受けられますが、公立の美術館では見掛けません。その代わり、「何人来場したか」ということには、ものすごくこだわるんですね。

野尻:僕らも、「何万人来ました」なんて言われると、ついその数字に踊らされちゃいますよね。

大林:館全体の品質やマネジメントで評価されるべきでしょうね。もちろん、それに準ずるような動員を実現する努力もしなきゃいけないんだと思います。

馬場 正尊(ばば まさたか)/株式会社オープン・エー代表取締役。東北芸術工科大学教授。建築家。1968年佐賀生まれ。博報堂などを経て、2003年Open A Ltd.設立。都市の空地を発見するサイト「東京R不動産」を運営。東京の日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断する活動をしている。2015年「公共R不動産」開始

木下:国から75億円もらってもいいけれど、だったらさらにそれと同額の75億円くらいを目指してファンドレイジング(資金集め)するような努力もしてほしいです。

馬場:公的な美術館の館長って、役人の天下りだったりすることもある。だとすると、ファンドレイジングのための営業なんて、絶対にできそうもないですよね。そこをどうにかしないといけないと思う。民間出身の人で、美術館の館長をやってみたいという人だってたくさんいると思いますけどね。

大林:それから美術館の理事会なり評議員会なり、あるいはインターナショナルカウンシルに、どれだけ地元の人を巻き込むかも重要です。地元の名士の方は、最初はそんな役職に就くことを「面倒くさいな」と思っていても、やっていくうちにだんだん美術館への愛着が湧いてくるものです。そういう地元からの支えも大切です。どうも日本の公的美術館は地元と疎遠で、「そういうことはお上がやることだ」と思っているフシがある。

――国内の他の美術館の事例も紹介します。東京・墨田区にある「すみだ北斎美術館」は、民間から5億円以上の寄付を集めて作られました。運営は指定管理者の墨田区文化振興財団と丹青社の共同事業体で、指定管理料は4500万円。墨田区の年間運営費は1億6000万円となっています。

続いて紹介するのは石川県の「金沢21世紀美術館」です。現在美術収蔵の新しいモデルとして期待されています。2004年開館の市立美術館ですが、兼六園に隣接し、市の中心部に位置しています。2016年には225万人という過去最高の来場者がありました。無料で公開されている部分が広く、市民に愛される美術館として有名です。

大林:金沢21世紀美術館は小中高生の入館料を無料にしています。子どもを無料にしても、連れてくる親から入館料はもらえますし、子どもたちが大きくなったときに幼い頃に見たアートを好きになってくれる。そういう効果もある。ですから子どもをどう美術館に連れてくるかというのは、数十年計画で取り組むべきテーマだと思いますね。

野尻:実は数週間前、僕も息子を連れて行ってきましたけど、グッズをいっぱい買わされました(笑)。それに子どもが無料で行けるところが本当にたくさんあってびっくりしました。

大林:先ほどのアメリカの自然史博物館もそうですが、子どもにとって博物館に泊まったり美術館で作品に触れ合ったりするのは最高に楽しい経験になります。そのためにも、欧米の美術館は子どもたち向けにアートを解説するキュレーターへの教育が非常に進んでいます。日本はそこではだいぶ遅れていますね。

「保存」にこだわらず、「使って集客する」という発想を

――最後に、国内の未活用事例も紹介します。神奈川県立近代美術館鎌倉館です。建物は坂倉準三設計のモダニズム建築の傑作で、1951年に開館しましたが、老朽化と耐震性の問題により2016年1月末に閉鎖されました。敷地を所有する鶴岡八幡宮との賃借契約も満了となったため、現在建物は鶴岡八幡宮に無償譲渡されています。今後の活用についてはこれから検討されることになっています。

2016年1月に閉鎖された神奈川県立近代美術館の鎌倉館。老朽化などから閉鎖されたが、建物は坂倉準三設計のモダニズム建築の傑作。再使用してほしい美術館の1つ(写真:046X/PIXTA)

大林:日本と欧米とでは、保存についての考え方がずいぶん違うんですね。日本は相対的に歴史が浅いものでも「保存する」となったら徹底的に保存しようとする。でも欧米では、そこそこ歴史のある立派な建築であっても、思い切って手を入れている。外観とイメージは壊さないで、中は思い切って変えているんですね。単に「保存する」ということではなく、「どう使うか」がポイントになっている。日本でももう少し楽しく使おうという気風が出てきたほうがいいと思いますね。

野尻:日本は原則「Don’t Touch」。それに対して、海外では、用意周到に「冒険」して、使っていますよね。

大林:この鎌倉館は坂倉先生の名建築なので、今後ぜひ使ってもらいたいですね。

本記事は「第7回パブリック・アライアンス・トーク」のライブを基に再構成したものです。なお第10回は10月27日(金)に開催。ゲストは寺田倉庫社長兼CEOの中野善壽氏の予定です。詳しくはこちらをご覧ください(有料で参加可能です)。施設のリノベーションなど、パブリック・アライアンスへのお問い合わせはこちら
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引用元:東洋経済オンライン

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