キリスト教会爆破したイスラム過激派の論理IS「処女地」で起きたエジプトでの自爆テロ|マネブ

マネブNEWS:〔2017.05.28〕マクロン勝利で陳腐化する「右派対左派論争」左派対 現在の記事数:240846件

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キリスト教会爆破したイスラム過激派の論理IS「処女地」で起きたエジプトでの自爆テロ


エジプトのキリスト教会で起こった連続爆発テロ。政府は非常事態宣言を出した(写真:AP/アフロ)

またもテロの悲劇が襲った――。

4月9日。エジプトの北部、地中海に面した大都市アレクサンドリアとナイルデルタにある都市タンタで、コプト教会の復活祭礼拝を狙った自爆テロ事件が起こった。死者は40人以上、負傷者は120人以上。「イスラーム国 (IS) エジプト」が犯行声明を出した。

コプト教会はエジプト生まれのエスニックなキリスト教会を指す。5世紀にイエスの神性と人性をめぐる論争の中、コプト教会は神性のみを認める単性説として、神性と人性の両方を強調するカルケドン派キリスト教(その後カトリック、ギリシャ正教、プロテスタントに分岐する)に、”異端”として追放される。7世紀にエジプトはイスラム教に征服された。

同教会はイスラム教支配下で苦難の時期を迎えるが、現在でも人口の10%を占めると報道されている。著名人にはガリ第6代国連事務総長(2016年に93歳で死去)がいる。

ISが狙ったキリスト教の神聖な期間

2件のテロ事件は、クリスマスと並ぶキリスト教2大祝日である復活祭の、1週間前の聖枝祭(イエスのエルサレム入場記念日)を標的にした。いまやイスラム過激派の代表格になったISが、エスニックな存在とはいえ、キリスト教会を神聖な期間にタイミングを合わせて実行した凄惨なテロ事件として報道され、世界に衝撃を与えている。タンタにあるコプト教会内の自爆テロは、死者29人、負傷者69人に及んだ。事件前と直後の教会内部の動画がCNNニュースでネット配信されたが、その凄惨さに息をのんだ人も多いだろう。

4月10日付のウォールストリートジャーナル紙(WSJ)は、「なぜエジプト政府はキリスト教徒少数派を守れないのか?」と、エジプト政府の手ぬるい姿勢を非難する社説を掲載した。海外からの厳しい批判を受け、シーシ・エジプト大統領は、直ちに「非常事態」を宣言。期間は3カ月だ。教会や政府関連施設を厳重に警戒するなどの処置を取る。

犯行を声明した「IS エジプト」は、「ISシナイ支部」を自称していたグループと推測される。もともとアラブ文明の中心地であるエジプトには、ISやアルカイダを名乗る過激派テロ組織はなかったはず(あっても少数派)。エジプト国内で広範囲に根を張り、民衆に支持されていたのは、「ムスリム同胞団」である。ムスリム同胞団は1928年、ハサン・バンナーによって設立された、穏健なイスラム原理主義運動といえる。

彼らはイスラム原理主義の旗を掲げ、エジプトを事実上の植民地としていたイギリスと、その傀儡(かいらい)になっていたムハンマド・アリー王朝を打倒する目標を掲げていた。ただ、その手段はテロ本位ではなく、宗教教育、医療、社会福祉活動、スポーツ施設の運営など、民衆の支持を集めることに頼る。1953年、エジプト軍青年将校団による王制打倒革命に、ムスリム同胞団も呼応しており、目標は実現したかに見えた。ただ、エジプト革命の成果は軍隊に横取りされ、再び弾圧される立場になる。

サダト大統領時代(1970~1971年)に一時、ムスリム同胞団が復権するが、長続きせず、2011年のアラブの春まで雌伏を余儀なくされる。が、その間も、民衆の草の根ネットワークは拡大。念願かない、2012年にムスリム同胞団系のムルシー政権が発足するが、失業やインフレの問題を解決できないことから、民衆や青年の不満がたまって支持が低下した。機会をうかがっていた軍部は2013年、自由で民主的な選挙で選ばれたはずのムルシー政権をクーデターで打倒。再びムスリム同胞団は冬の時代を迎えた。

エジプトに詳しい鈴木恵美・早稲田大学准教授は、ムスリム同胞団の体質について、「とても辛抱強い組織。目標を達成するためには100~200年かかってもよい、と時間軸を長く考える」という(「アラブの春」当時の取材による)。派手なテロと宣伝を武器に瞬発力を生かしてインターナショナルに出没するIS・アルカイダ系と、地元密着や社会運動重視でコツコツ型のムスリム同胞団とは、本来向いている方向と体質が違うはずだ。

黒い旗を掲げ自称すればISと認められる

ところがそうともいえない情勢が生まれている。エジプトでは2013年の軍クーデター以降、ムスリム同胞団のグループが首都カイロから政府の監視が手薄なシナイ半島へと避難している。シナイ半島の東側にはイスラエルという壁があり、サウジアラビアとの間には紅海がある。

封じ込められたムスリム同胞団の一部から、シリアやイラクで派手に活動し世界の視線を集めるISをみて、「自由で民主的な選挙で選ばれた政権がクーデターで打倒された。従来の路線には限界がある」と考えるグループが生まれたとしても、おかしくない。何しろISは黒い旗を掲げ、ISを自称すれば、簡単にISと認証されるのだ。

コプト教会の自爆テロ前にも、「ISシナイ支部」を名乗るグループのテロ事件は何件か発生している。アラビア語による犯行声明を聞いたエジプトに詳しい識者は、「完全なエジプト人のアラビア語であり、シリアやイラクのアラビア語と違う」と指摘する。

実は今回のテロ事件について、ISに転向したムスリム同胞団の一部も関与していたとすれば、シーシ政権にとって好都合なのだ。草の根ネットワークで社会活動をしてきたムスリム同胞団に対し、テロリストのレッテルを貼ることができれば、国内からの「同じエジプト人を殺すのか」という批判や国際社会からの監視の目をかわすことができる。その意味でシーシ政権の素早い非常事態宣言からはやる気がうかがえる。

一方、「ISシナイ支部」を名乗るグループにとっても、好都合である。

まず、エジプトに存在する多数派のイスラム教徒とキリスト教徒の間にある、微妙な亀裂を拡大できる。キリスト教徒に対するテロを起こせば、シーシ政権がWSJの社説のように、国際社会から非難される。またエジプト最大の産業は観光業だ。「エジプトは危険」というイメージを増幅することで、経済的な打撃を効果的に与えることができる。さらには、ムスリム同胞団主流派の「穏健なイスラム原理主義」「草の根ネットワーク運動」の限界を見せつけることで、ISへの転向者を集めることも容易になる。

エジプト政府には、シナイ半島を完全な安全地帯にする能力はないとみられることから、「ISシナイ支部」を根絶することは困難だろう。とすれば、エジプトでのテロは今後も間欠的に続く。

エジプトは、シリアやイラク、リビア、サウジアラビアと違い、アラブ世界の中心にいる国。IS”処女地”といってもよい国だった。シリアやイラクでIS勢力の後退が進んでいる時期、エジプトでIS”感染症”が広がれば、国際社会に与える影響は甚大だ。

マネマガ
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引用元:東洋経済オンライン

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